【長引く咳とは】
本邦では小児の咳嗽の持続期間は成人のガイドラインなどに準じ、3週未満を急性咳嗽、3週以上8週未満を遷延性咳嗽、8週以上を慢性咳嗽としています。一般的には3週以上持続する咳を長引く咳嗽としています。
つまり、咳嗽の持続期間が短ければ感染症による確率が高く、長くなるほど感染症以外の原因による咳嗽の確率が高くなります。
【長引く咳嗽の原因疾患の特異的な病歴など】
| 原因疾患 | 病歴 |
|---|---|
| 咳喘息 | 夜間〜早朝に咳を認める(特に眠れないほどの咳や苦しい呼吸は咳喘息を疑わせる)、症状の変動性(日差・季節性)、アレルギー性鼻炎の合併 |
| アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性) | 症状の季節性、咽喉頭のイガイガ感や掻痒感、アレルギー性鼻炎(特に花粉症)の合併 |
| 副鼻腔気管支症候群 | 慢性副鼻腔炎の既往・症状・膿性痰の存在 |
| 胃食道逆流 | 食道症状(胸焼けなど)の存在、会話時・食後・起床直後・就寝直後・上半身前屈時の悪化、体重増加による悪化、亀背の存在、咽喉頭逆流(咳払い、嗄声、咽喉頭異常感など) |
| 感染後咳嗽 | 上気道炎が先行、徐々にでも自然軽快傾向(持続期間が短いほど感染後咳嗽の可能性が高くなる) |
| 慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎 | 現喫煙者の遷延咳嗽 |
| アンギオテンシン変換酵素阻害薬による咳 | 服薬開始後の咳 |
| 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 | いびき、日中の傾眠傾向、肥満、高血圧 |
オーストラリアで、小児において4週以上の長引く咳嗽に気管支鏡と気管支肺胞洗浄液の検査を行なったところ、45.4%に「遷延性細菌性気管支炎(protracted bacterial bronchitis:PBB)」と診断されたと報告されています。
本邦では幼児期に感冒罹患を契機に遷延する湿性咳嗽はマクロライド系抗菌薬やスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤の十分な投与が有効な例が多く、成育医療研究センターでは「遷延性気管支炎(protracted bronchitis)」と呼んでいて、PBBに相当するものかもしれません。
【咳嗽の診断に必要な問診のポイント】
- 咳嗽はいつから始まったのか?(咳嗽の持続期間)
- 咳嗽の経過は?
- 咳嗽の症状は?(乾性、湿性、痰を伴うかどうか)
- 咳嗽の時間帯は?
- 日常生活との関連は?(運動、睡眠、食事など)
- 予防接種歴、既往歴、家族歴
- 環境因子(ペットとの接触、喫煙・受動喫煙、住宅状況など)
- 随伴症状の有無
- 流行状況
【咳嗽の主な治療】
1)中枢性鎮咳薬
麻薬性中枢性鎮咳薬
12歳未満では禁忌です。便秘が高頻度で生じます。
非麻薬性中枢性鎮咳薬
デキストロメトルファン(商品名:メジコン)が効果があったというデータもありますが、明らかではありません。睡眠不足や体力の消耗などがあれば試してみても良いでしょう。
2)抗菌薬
4週以上持続する湿性咳嗽に対して抗菌薬は有効とされています。使用する抗菌薬は
- アモキシシリン/クラブロン酸 30〜45mg/kg/日 x 7〜14日
- エリスロマイシン 50mg/kg/日 x 7日
などの報告があります。
3)喀痰調整薬
粘液溶解薬(ムコフィリン、ビソルボン)、粘液修復薬(ムコダイン)、気道潤滑薬(ムコソルバン)、気道分泌細胞正常化薬(クリアナール)の4種類がありますが、明確な使い分けは困難です。有効性は明らかではありませんが、喀痰が気道内に貯留すると炎症をさらに悪化させる可能性もあるため、使用しても良いと思われます。
4)β2刺激薬
2歳以上の長引く咳に対してβ2刺激薬の吸入は無効とされています。勿論、咳の原因が喘息であれば有効です。
5)吸入ステロイド
喘息以外の長引く咳に対して吸入ステロイドが有効だという根拠はありません。
6)ロイコトリエン受容体拮抗薬
吸入ステロイドと同様に、喘息以外の長引く咳に対して有効だという根拠はありません。
7)ヒスタミンH1受容体拮抗薬
小児の長引く咳の治療として一律に推奨はされませんが、強い鼻症状を伴う季節性アレルギー性鼻炎による咳嗽に対して、使用することは妨げないとなっています。
成人でヒスタミンH1受容体拮抗薬が有効な咳嗽に「アトピー咳嗽」がありますが、小児ではその頻度は少なく、使用はあまり推奨されていません。
主に大人用になりますが、アトピー咳嗽と咳喘息に関して記載します。
【アトピー咳嗽の簡易(治療的)診断基準】
次の1〜4のすべてを満たす
- 喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が8週間以上持続
- 気管支拡張薬が無効
- アトピー素因を示唆する所見(注1)または誘発喀痰中好酸球増加の1つ以上を認める
- ヒスタミンH1受容体拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失
注1 アトピー素因を示唆する所見
- 喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
- 末梢血好酸球増加
- 血清IgE値の上昇
- 特異的IgE抗体陽性
- アレルゲン皮内テスト陽性
【アトピー咳嗽と咳喘息の特徴】
| アトピー咳嗽 | 咳喘息 | |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 中年・女性 | 若年・女性 |
| 気道炎症部位(好酸球性) | 中枢気道 | 末梢〜中枢気道 |
| 症状好発時間帯 | 就寝時、深夜〜早朝、起床時 | 夜間〜早朝 |
| 生理学的特徴(カプサイシン咳感受性/メタコリン誘発咳反応) | カプサイシン咳感受性:亢進 | カプサイシン咳感受性:正常 |
| メタコリン誘発咳反応:正常 | メタコリン誘発咳反応:亢進 | |
| FeNO | 正常 | 高値が多い |
| 治療効果 | 気管支拡張薬:なし | 気管支拡張薬:あり |
| ロイコトリエン受容体拮抗薬:あり | ロイコトリエン受容体拮抗薬:なし | |
| ヒスタミンH1受容体拮抗薬:あり | ヒスタミンH1受容体拮抗薬:あり | |
| ステロイド:あり | ステロイド:あり | |
| 治療期間 | 症状改善後速やかに中止可能 | 長期(1年以上) |
| 気管支喘息への移行 | なし | あり(約30〜40%) |
※上記は一般的な傾向を示したものであり、個々の患者さんで当てはまらない場合もあります。
【喘息を疑う患者に対する問診チェックリスト(成人)】
大項目:喘息を疑う症状(喘鳴、咳嗽、喀痰、胸苦しさ、息苦しさ、胸痛)がある
小項目:症状
- ステロイドを含む吸入薬もしくは経口ステロイド薬で呼吸症状が改善したことがある
- 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を感じたことがある
- 3週以上持続する咳嗽を経験したことがある
- 夜間を中心とした咳嗽を経験したことがある
- 息苦しい感じを伴う咳嗽を経験したことがある
- 症状は日内変動がある
- 症状は季節性に変化する
- 症状は香水や線香などの香りで誘発される
- 冷気によって呼吸症状が誘発される
小項目:背景
- 喘息を指摘されたことがある(小児喘息も含む)
- 両親もしくは兄弟に喘息がいる
- 好酸球性副鼻腔炎がある
- アレルギー性鼻炎がある
- ペットを飼い始めて1年以内である
- 血中好酸球が300/μL以上
- アレルギー検査(血液もしくは皮膚検査)にてダニ、真菌、動物に陽性を示す
8)選択的P2X3受容体拮抗薬
これまで有効な治療法がなかった慢性咳嗽の治療薬として、選択的P2X3受容体拮抗薬であるゲーファビキサントクエン酸(Gefapixant citrate)(商品名:リフヌア)が販売承認されました。まだ18歳未満の小児には適応がありません。基本病態である咳過敏状態を改善することが期待されています。適応は難治性慢性咳嗽です。副作用として味覚異常が報告されています。
9)民間療法
ハチミツは1歳以上に投与することができます。咳止め薬やプラセボより症状緩和や睡眠改善に効果があるという報告がありますが、今後の検討が必要です。ただし、副作用のないものですので試して良いものだと思います。
【百日咳について】
長引く咳の代表的な疾患で注目されているのが百日咳です。予防接種をしていたり、成人の百日咳は定型的な経過を取らないため、診断が遅れやすいのが特徴です。
診断法としては
- 菌の分離:陽性率が10%程度と低いのが問題です。
- 百日咳毒素(pertussis toxin:PT)に対する血中IgG抗体:2週間以上の経過のペア血清で2倍以上上昇しているか、初回測定時抗体値が100EU/mL以上と高値であれば診断可能です。PT-IgG抗体が上昇するまでに時間がかかるのが問題です。
- LAMP法:感度は27.8%ですが、特異度は100%です。
発症から2週間程度までであれば抗菌薬が有効ですが、それ以降は自覚症状の改善には期待できません。しかし、周囲への拡散の予防にはなります。
使用する抗菌薬はマクロライド系抗菌薬ですが、最近はマクロライド耐性の百日咳(MRBP)が問題になっており、その場合にはST合剤を併用します。
以下のサイトも参考にしてください。
https://tsudashonika.com/disease-cat/pertussis/(百日咳)










