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診療案内 過敏性腸症候群(小児・青年期の腹痛・下痢)

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)

 

【過敏性腸症候群とは】

 国際的な機能性消化管病変の基準であるローマ分類で消化管に由来する腹痛を中心とした腹部症状が
①6か月以上前から存在し、かつ
②最近3ヶ月はそれぞれの診断基準を満たし、症状の誘因となる器質的な病変がないものを機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders: FGIDs)と呼びます。
 過敏性腸症候群はこの一つです。FGIDsは0〜3歳までの新生児・幼児期と4〜18歳の小児・思春期に分かれています。IBSも同様に年齢別になっています。

 

【原因】

 脳と腸管は自律神経を介して関与しており、これを脳腸相関と呼びます。IBSの患者さんでは、脳から腸に向かう信号と腸から脳に向かう両方の信号が正常のヒトより強くなっています。遺伝的要因、ストレスなどにより自律神経を介して腸の運動に異常を生じ、下痢になったり便秘になったりお腹が痛くなったりするのです。食物はその種類と摂取方法により腸から脳に向かう信号を強くし、知覚過敏を引き起こします。皆さんも緊張すると下痢しやすくなる方がいらっしゃいますよね。

  1. 腸管運動の異常
    • 下痢型では腸管が過度に蠕動して便の水分が吸収されにくく、便秘型では腸管蠕動が遅延して便塊を形成します。
    • 混合型では下痢と便秘が交互に発生し、さらに腹痛が増強しやすいです。
  2. 内臓知覚過敏
    • 腸管に生じる正常の刺激(ガスや便など)が過剰に「痛み」や「不快感」として認識されます。
    • ストレスや不安、睡眠障害がこの内臓感覚を増幅させることがあります。
  3. 心理社会的要因
    • 学校生活や家族のトラブルなど心理的ストレスがIBSを悪化させることが知られています。
    • 「朝になると腹痛が強まる」は背景に登校への不安が潜んでいることがあります。

 最近、過敏性腸症候群の50%以上で小腸内細菌異常増殖症(SIBO; small intestinal bacterial overgrowth)が原因とも言われています。

 

【頻度】

 成人では約10%とされ、我が国では、小学生:0.2〜2.5%、中学生:1.2〜4.5%、高校生:2.5〜8.0%とされています。小児慢性腹痛の10〜20%がIBSと推定されています。

 

【定義】

 ローマⅣの定義では下記の全ての項目があることとなっています。

項目 詳細
症状持続期間 少なくとも2ヶ月以上、かつ1ヶ月に4日以上腹痛がみられる
排便との関係 腹痛が排便によって軽減したり、排便とともに生じたりする場合(排便関連性)
便の頻度変化 腹痛に伴い、便の回数が増えるまたは減るといった明確な変化がある
便の形状変化 腹痛に伴い、便の形状(硬さ、軟らかさ)が変化する(下痢様or便秘様)
便秘合併症での注意 便秘が解消しても腹痛が続く場合IBSと判断(便秘が治ると痛みも消失するなら機能性便秘)
器質的疾患の否定 適切な評価(血液検査、画像検査など)を行っても、他の病態や疾患で腹痛を説明できない
備考(基準適用期間) 「症状が2ヶ月以上継続し、上記の全てを満たす」ことでIBSと診断

 

【分類・サブタイプ】

  1. 反復性腹痛(RAP:recurrent abdominal pain)型
    頻回に臍部中心の腹痛がある。便通は一定しない。起床時に増悪し、午後には軽快する。低年齢の子どもに多い。
  2. 便秘型
    下剤使用による便意、もしくは頻回な便意と不十分な排便がある。比較的頻度は少なく、女子に多い。
  3. 下痢型
    起床時から腹部不快感や腹痛、頻回な便意を催す。便性状は、軟便で次第に下痢便となる。不登校につながることが多い。男子に多い。
  4. ガス型
    放屁や腹痛、腹部膨満などガス症状に対する恐怖・苦悩が多い。便通は一定でなく、圧倒的に女子に多い。思春期以降に多くは軽快するが、一部は治療抵抗性を示し、精神疾患へ発展することもある。

 

【検査】

 

【対応】

 まず、他に原因がないことを確かめることが重要です。なかには器質的な疾患だけでなく不安・抑うつ・統合失調症など精神科的な疾患であることもあります。他に原因がなければ、お子さんが困らないような環境を整えてあげましょう。

 学校ではお子さんがこの病気であることを理解してもらい、トイレにいつでも行けるように退席しやすい座席を選ぶなどしてあげて下さい。必要であれば診断書を書くことも大切です。起床時に長時間トイレにいることもあるので、遅刻、不登校になることもあります。通学の際にもトイレの場所を確認していつでも行けるような方法をとって下さい。

 家庭では規則正しい生活、規則正しい食事をとらせてください。
RAP型や下痢型では辛いものやカフェイン、乳製品や冷製食品を避けましょう。
便秘型では水分を十分にとること、高繊維食をとり低FODMAP食も勧められています。高脂肪食を避けましょう。
ガス型も低FODMAP食を推奨しています。

 理解してあげることによりお子さんのストレスは減ると思います。

 

 低FODMAP食とは以下の成分が少ないものを言います。

F: fermentable(発酵成分)
O: oligosaccharides(オリゴ糖)
D: disaccharides(二糖類)
M: monosaccharides(単糖類)
And
P: polyols(ポリオール)糖アルコール

 SIBOにはこの低FODMAP食が有効とされています。

  ×高FODMAP食 ◎低FODMAP食
穀類 大麦、小麦、ライ麦、とうもろこし、パン、ピザ、ラーメン、お好み焼き、パスタ、たこ焼き、うどん、シリアル、そうめん、洋菓子類など 米、玄米、タピオカ、そば(10割)、オートミール、オート麦、こんにゃくめん、タコス、米粉類、コーンスターチ、ビーフン、ポップコーン、フォーなど
野菜・いも類 アスパラガス、ごぼう、豆類、セロリ、納豆、キムチ、ゴーヤ、フライドポテト、ねぎ、きくいも、玉ねぎ、さつまいも、にんにく、たろいも、ニラ、マッシュルーム、カリフラワー、らっきょうなど なす、しょうが、トマト、オクラ、ブロッコリー、レタス、にんじん、たけのこ、ピーマン、もやし、ほうれん草、チンゲン菜、かぼちゃ、白菜、きゅうり、かぶ、じゃがいも、キャベツなど
調味料・その他 はちみつ、カレーソース、オリゴ糖、ブイヨン、果糖ブドウ糖液糖、固形スープの素、ソルビトール、絹ごし豆腐、キシリトール、バルサミコ酢、トマトケチャップ、豆乳(大豆由来)、バーベキューソース、カスタードなど マヨネーズ、ソース、オリーブオイル、マーマレード、酢、ピーナッツバター、トマト缶詰、メープルシロップ、ココア、豆腐、ココナッツオイル、豆乳(大豆抽出物由来)、魚油、キャノーラ油、味噌など
乳製品 牛乳、カッテージチーズ、ヨーグルト、ブルーチーズ、アイスクリーム、クリームチーズ、ミルクチョコレート、プリン、プロセスチーズ、コンデンスミルク バター、ゴルゴンゾーラチーズ、マーガリン、モッツァレラチーズ、アーモンドミルク、パルメザンチーズ、カマンベールチーズ、ブリーチーズ、チェダーチーズ、バターチーズなど
果物 りんご、西洋なし、スイカ、パパイヤ、あんず、さくらんぼ、もも、干しぶどう、なし、プルーン、グレープフルーツ、いちじく、アボカド、プラム、ライチ、マンゴー、柿、ドライフルーツ バナナ、きんかん、いちご、パイナップル、ココナッツ、ライム、ぶどう、ラズベリー、メロン、ブルーベリー、キウイ、クランベリー、オレンジ、スターフルーツ、みかん、ドリアン、レモン、ドラゴンフルーツ
飲み物 りんごジュース、チャイ、マンゴージュース、カモミールティー、オレンジジュース、はちみつ入りジュース、梨ジュース、エナジードリンク、レモネード(加糖)、マルチビタミンジュース、ウーロン茶、ラム酒、ハーブティー、甘いワイン、麦芽コーヒー、りんご酒など 紅茶、ウォッカ、コーヒー、ウイスキー、緑茶、甘くないワイン、レモンジュース、タピオカティー、ライムジュース、チャイ(薄いもの)、クランベリージュース、レモネード(無糖)、ビール、水、ジン、日本酒など
肉類 魚の缶詰、ソーセージ 肉全般(ハムベーコンも)、卵、魚介類全般
ナッツ等 カシューナッツ、あんこ、ピスタチオ、きな粉、アーモンド(20粒以上)、わさびなど、あずき アーモンド(10粒以下)、栗、ピーナッツ、バジル、ヘーゼルナッツ、カレー粉、くるみ、唐辛子など

“パン・豆類・ヨーグルト・りんごを食べてはいけません”江田証著 さくら舎 2017年 より抜粋

 

【薬物療法】

1)消化管主体の治療

 便秘型には非刺激性の下剤(モビコールなど)や漢方薬(小建中湯、四逆散、大建中湯、桂枝加芍薬大黄湯など)、時に刺激性瀉下薬を頓用で使用します。

 下痢型、便秘型どちらにも高分子重合体のポリカルボフィルカルシウム(コロネル、ポリフル)が推奨されています。

 下痢型には5-HT3受容体拮抗薬(ラモセトロン:イリボー):男性:5〜10μg/日。女性:2.5〜5μg/日で開始します。便秘、めまいなどの副作用に注意が必要です。
漢方薬(半夏瀉心湯、五苓散、真武湯、人参湯など)も試用することがあります。

 ガス型やRAP型では経験的に抗コリン薬(ブスコパンなど)頓服または定期内服、整腸剤やジメチコン(ガスコン)などが処方されます。漢方薬では桂枝加芍薬湯や小建中湯、安中散、芍薬甘草湯などが適応です。

2)中枢機能調整

a) 心理士や児童精神科医の相談
b) 抗うつ剤の使用(低用量)

いずれも傾眠、めまい、体重増加などの副作用に注意が必要です。

 

SIBO(小腸内細菌異常増殖)の関与
これに関しては別項で述べたいと思います。

 

機能性消化器症状の薬物療法

症状 分類 一般名 商品名 薬用量
下腹部痛 消化管鎮痛鎮痙剤 ブチルスコポラミン臭化物 ブスコパン 20〜30mg/day
消化管機能調整剤 マレイン酸トリメブチン セレキノン 300mg/day
上腹部痛
心窩部灼熱感
H2受容体拮抗剤 ファモチジン ガスター 20mg/day
ニザチジン アシノン 150〜300mg/day
胸部灼熱感
(PPIのみ)
プロトンポンプ阻害剤(PPI) オメプラゾール オメプラール 10〜20mg/day
ラベプラゾール パリエット 10〜20mg/day
ランソプラゾール タケプロン 10〜20mg/day
ボノプラザンフマル酸塩 タケキャブ 10〜20mg/day
食後胃もたれ
早期飽満
消化管運動機能改善薬 モサプリド ガスモチン 15mg/day
アコチアミド アコファイド 300mg/day
下痢 整腸薬 ビフィズス菌 ビオフェルミン
ラックB
2.0〜3.0g/day
ミヤリサン ミヤBM 1.5〜3.0g/day
  ポリカルボフィルCa ポリフル
コロネル
1.5〜3.0g/day
ラモセトロン塩酸塩 イリボー 2.5〜5.0μg/day
便秘 浸透圧性緩下剤 酸化マグネシウム マグラックス 0.5〜2.0g/day
マクロゴール モビコール 1~4(8)包/day
腸内環境調整剤 ポリカルボフィルCa ポリフル
コロネル
1.5〜3.0g/day
Clチャンネル作用薬 ルビプロストン アミティーザ 24〜48μg/day
GC-C受容体作用薬 リナクロタイド リンゼス 0.2〜0.5mg/day
刺激性瀉下剤 ピコスルファートNa ラキソベロン 5.0〜7.5mg/day
センノシド プルセニド 12〜24mg/day
腹部膨満感 消化管内ガス駆除薬 ジメチルポリシロキサン
(ジメチコン)
ガスコン 120〜240mg/day

小児では適応のない薬剤も含まれています。

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