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診療案内 麻疹(はしか)

麻疹(はしか)

【麻疹とは】

麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、江戸時代には「命定め」と呼ばれていたほど重症な感染症です。
予防接種のない時代では麻疹に罹患して生き残ることができなければ子どもを持ったお祝いができないほどでした。
衛生状態が改善された現代でも、罹患すると1000人に1〜3人程度の方が亡くなります。日本でも麻疹による死亡者数はワクチンによる予防のおかげで著しく減少していますが、いまだ毎年報告されています。
0〜4歳の死亡が大半を占め、特に0,1歳児の占める割合が多いのが現状です。

 

【麻疹の語源】

「はしか」は稲や麦などの穂先にある針のような毛である芒(のぎ)に触れたときの痛がゆい感覚をしめす「はしかい」と言う言葉が語源とされています。
麻疹にかかると、咽や皮膚がチクチク、ヒリヒリと感じることがその感覚に似ていることから「はしかい」がだんだん「はしか」に変わったようです。
一方「麻疹」は発疹の形や色が麻の実の様に見えたことから来ています。

 

【感染様式】

空気感染(飛沫核感染)です。免疫のない方が患者さんと同じ空間(同じ部屋,同じ飛行機、車両など)にいるとほぼ100%感染し、発病します。
下記のカタル期がもっとも感染力が強く、ヒトからヒトへ感染します。ヒト以外には感染しません。

 

【潜伏期】

10〜12日

 

【診断】

臨床診断と血液検査、咽頭からの遺伝子診断があります。臨床的にはカタル期(咳・鼻汁・結膜充血など)の終わるころに、口腔粘膜に見られるコプリック(Koplik)斑が有用とされています。

 

【症状】

 

カタル期 感染してから11日前後で38℃前後の発熱とかぜ症状(咳嗽・鼻汁・倦怠感など)と結膜充血などが3〜4日持続します。
次の発疹がでる前に一旦解熱しますが、この時期に口腔粘膜に白色のコプリック(Koplik)斑が見られます。
目の症状としては、結膜充血のほか眼脂が多く認められます。
発疹期 上記の解熱後半日程度で再び高熱(39〜40℃)が出現し、発疹が出てきます。発疹は耳介後部・顔やカラダから出現し全身に広がります。
この時期がもっともつらく乳幼児では経口摂取が悪くなるため脱水になりやすいです。発疹期は3〜4日程度持続します。
回復期 解熱後は徐々に回復してきますが、咳は残ります。発疹は色素沈着を残し退色していきます。

 

【合併症】

①脳炎

急性期の終わりから回復期にかけて脳炎または脳症を合併することがあります。
麻疹の死亡の最も多いのがこの中枢神経合併症で1000人に一人の割合で発症し、死亡率は15%、後遺症を残すのが30%と言われています。

 

②肺炎

麻疹に罹患すると一過性ですが強い免疫抑制状態に陥ります。そのため細菌による二次感染による細菌性肺炎にかかることがあります。
その他にも、麻疹ウイルスによるウイルス性肺炎(間質性肺炎)を生じることもあります。

 

③SSPE(亜急性硬化性全脳炎)

麻疹感染後数年から10年程度で発症する遅発性脳炎です。10万人に数人の発症率ですが、低年齢でかかると発症率が高くなると言われています。
極めて予後不良で、学力・集中力低下、性格の変化などの症状で発症し、徐々に悪くなり数ヶ月から数年の経過で痙攣などの出現を経て寝たきり、昏睡状態となり致死的な経過をたどります。

 

④その他

麻疹ウイルスによる細気管支炎、仮性クループなど、細菌の二次感染による中耳炎、気管支炎などがあります。私個人では脳症・肺炎・SSPEを経験しています。脳症、肺炎の方は亡くなりました。

 

【治療】

有効な治療はなく、解熱剤や点滴などの対処療法しかありません。栄養状態が悪い方にはビタミンAが有効との報告があります。細菌による二次感染には抗生剤を使用します。

 

【予防】

ワクチンが極めて有効です。麻疹患者に接触したのち72時間以内であればワクチンの緊急接種が有効です。現在、麻疹単独ワクチンはなく、麻疹・風疹混合ワクチンのMRワクチンとなります。
ワクチンの有効率は高いのですが、一部の方は接種しても発症する方がいます。この場合の多くは典型的な症状が出ず、修飾麻疹と呼ばれています。母親からの免疫が残っている乳児では修飾麻疹の経過をたどることがあります。

 

【登園・登校基準】

解熱後3日経過すれば登校・登園が可能となっています。

 

【こぼれ話】

「はしか」は兵庫の方言の「はしかい(かゆい)」に由来していると言われています。また、「麻疹」は 中国由来の語で、発疹の形や色が麻の実のように見えることから由来しています。
麻疹で無くなったもっとも有名な人物は、犬公方でしられる5代将軍の徳川綱吉です。1708(宝永5)年に流行で、64歳で亡くなっています。

 

【参考にしたもの】

Red Book 2015 American Academy of Pediatrics
小児感染症マニュアル 2017 日本小児感染症学会編

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