【はじめに】
ガイドラインは公益財団法人日本医療機能評価機構が作成した「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じてエビデンス総体と推奨グレードを設定しています。ちなみにMindsとはmedical information network distribution serviceの略です。
それによるとガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスの SR(Systematic Review)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。
下記のCQとはClinical questionのことです。
ガイドラインのCQの外来診療に役立つ部分をまとめました。
【CQ1】小児IgA血管炎患者に安静や運動制限は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: 小児および成人のIgA血管炎における安静や運動制限は、エビデンスがない。おもに皮膚症状に安静や運動制限が有効な例があることが経験的に知られているが、自宅で安静が保てない年齢の小児に対する安静目的の入院や体育などの学校生活の制限に関するエビデンスは乏しい。運動によって繰り返す皮膚症状や関節症状に対して安静や運動制限が経験的な治療として検討されるが、過度な安静や運動制限はストレスや筋力低下の一因にもなり得るため、病状や治療効果を踏まえて必要最小限にとどめる。
【CQ2】小児IgA血管炎患者に止血薬、血管強化薬投与は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: 止血薬としてカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物(アドナ)、トラネキサム酸(トランサミン)、血管強化薬としてアスコルビン酸(シナール)があるが、IgA血管炎に対する有効性に関するエビデンスは乏しい。重篤な副作用が生じないことが確認できれば、それらの薬剤の使用は医療上許容されると思われる。
【CQ3】小児IgA血管炎患者の関節症状に消炎鎮痛薬やステロイド薬投与は推奨されるか?
ステートメント:小児IgA血管炎患者の関節症状に対して
① 消炎鎮痛薬を使用することを検討しても良い
② ステロイド薬は使用しないことを提案する。ただし、非常に強い関節症状を呈する場合は使用を検討しても良い
解説: 小児IgA血管炎患者はしばしば関節の疼痛・腫脹・発赤・可動域制限などの関節症状を呈する。症状は足関節や膝関節にみられやすい。その機序としてIgA優位の免疫複合体の沈着により小血管炎を引き起こし、関節炎・関節痛を発症すると考えられている。関節炎に対する「非ステロイド性消炎鎮痛薬(non steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)は一般的に頻用されているが、エビデンスはない。ステロイドに関しては関節症状の重症度を改善させることが確認されたが、罹患期間の短縮は明らかではなかった。一方で体重増加や血圧上昇などの副作用は増加するため、使用についてはリスク・ベネフィットを検討する必要がある。
【CQ4】小児IgA血管炎患者の消化器症状にステロイド薬投与は推奨されるか?
ステートメント: 小児IgA血管炎患者の消化器症状に対して、腹痛の早期消失や強度の軽減を目的としたステロイド薬を投与することを提案する。
解説: 我が国においては、小児IgA血管炎患者の消化器症状、特に腹痛に対してステロイド薬が使用されることがしばしばあるが、その有効性を明確に示したエビデンスの高い報告はない。一律にステロイドを投与するのではなく、個々の症例で十分な検討が必要である。
【CQ5】小児IgA血管炎患者の消化器症状に第XIII因子製剤投与は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: 小児IgA血管炎患者の消化器症状に第XIII因子製剤の有効性を示したランダム比較試験(randomized control trial: RCT)では少数例の比較であるが、消化器症状(腹痛・血便)を含む重症度スコアが優位に改善したと報告されている。そのため、治療薬として検討しても良いが、前向き研究が少なく、十分なエビデンスはない。
【CQ6】小児IgA血管炎患者の消化器症状に対し抗潰瘍薬投与は推奨されるか?
ステートメント: 消化管出血をきたしたIgA血管炎患者の腹痛にヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)を投与することを提案する。
解説: ヒスタミンH2受容体は、消化管・心臓・神経細胞・白血球等に分布しており、ヒスタミンH2受容体阻害による抗炎症作用と鎮痛作用による効果がある。
ランダム比較試験では腹痛や消化管出血の持続時間を有意に短縮したと報告されているが、我が国で小児適応のある抗潰瘍薬に関する比較試験は見られなかった。以上により、H2RAの投与は、IgA血管炎の腹痛や消化管出血に効果がある可能性があり、使用することを提案するが、エビデンスレベルは低いと判断した。
【CQ7】ステロイド薬に効果不十分な小児IgA血管炎重症/難治患者(腎炎を除く)に対する追加治療には、どのようなものがあるか?
ステートメント: なし
解説: ステロイド薬に効果不十分な場合の治療法として、
① ステロイドパルス療法
② 免疫グロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin: IVIG)
③ 免疫抑制薬:アザチオプリン(イムランなど)、シクロホスフォミド(エンドキサン)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)、リツキシマブ(抗CD20モノクロナール抗体:リツキサン)
④ 血漿交換療法
が報告されているが、いずれも十分なエビデンスは存在しない。しかし、重症/難治患者においては追加治療によって改善が得られる可能性があり、各治療法の効果や副作用を踏まえて慎重な選択を行なった上で検討してもよい。
【CQ8】小児紫斑病性腎炎の発症予防にステロイド薬は推奨されるか?
ステートメント: 小児IgA血管患者に小児紫斑病性腎炎の発症予防としてステロイド薬を投与しないことを推奨する。
解説: RCTは3編確認されたが、いずれも小児紫斑病性腎炎に対する予防効果はなかった。また、長期予後に関しても腎予後に差はなかった。
【CQ9】小児紫斑病性腎炎にレニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: 小児紫斑病性腎炎に対するレニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬はすでに広く臨床で使用されているが、RCTや前向き研究は報告されていない。KDIGO(kidney disease improving global outcome)ガイドライン2021では5ヶ月以上蛋白尿が持続する小児紫斑病性腎炎に対し、アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme: ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体(angiotensin II receptor blocker: ARB)を使用すべきとしている。以上から、エビデンスレベルは高くないが、蛋白尿が持続する小児紫斑病性腎炎に対してRA系阻害薬を投与することで、腎機能障害の進行抑制と蛋白尿減少効果が得られる可能性があると考えられる。
【CQ10】小児紫斑病性腎炎の重症例にステロイド薬および免疫抑制薬は推奨されるか?
ステートメント: 小児紫斑病性腎炎の重症例に対しては、ステロイド薬および免疫抑制薬を使用することを推奨する。ただし、ステロイド薬単独による治療は根拠に乏しく、ステロイド薬と免疫抑制薬を併用することを提案する。
重症例以外ではレニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬が不応の場合、ステロイド薬および免疫抑制薬の使用を考慮して良いが、必要性および効果に関する根拠は限定的である。
解説: シクロスポリンは単剤でも寛解率が高く、タクロリムスは単剤でも寛解率が増加し、再発率は低下していた。ステロイド薬単剤の有効性を示した報告はエビデンスが低く、多剤併用療法に関してもエビデンスの高い報告はない。ステロイド薬と免疫抑制薬の併用は弱いながら推奨する根拠となりうると結論づけた。
【CQ11】小児紫斑病性腎炎の重症例にステロイドパルス療法は推奨されるか?
ステートメント: 児紫斑病性腎炎の重症例に対してステロイドパルス療法は有効である可能性があり、検討して良い。
解説: RCTは1編のみだが、その後の長期的観察研究において、免疫抑制薬(シクロスポリン)とともに蛋白尿消失や組織所見の改善、腎機能の保持に有効である可能性が示されている。
【CQ12】小児紫斑病性腎炎の重症例にパルスウロキナーゼ療法は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: 前方視的な検討はなく、エビデンスはない。後方視的研究観察では蛋白尿、血尿、書式学的な改善に有効であるとする報告もあり、選択肢として考慮しても良い。
【CQ13】小児紫斑病性腎炎の重症例に血漿交換療法は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: RCTや前方視的研究はないが、後方視的検討では、発症早期の血漿交換療法で、腎機能改善と尿蛋白現象がみられ有効であったとの報告がいくつか存在する。
以上により、紫斑病性腎炎の重症例(急速進行性糸球体腎炎を呈する例、ネフローゼ症候群を呈する例、細胞性半月体を高率に認める例)に対して、発症早期の血漿交換療法は有効である可能性がある。
【CQ14】小児紫斑病性腎炎の重症例に口蓋扁桃摘出術およびステロイドパルス両方との併用は推奨されるか?
ステートメント: なし
解説: RCTや前方視的な介入研究などのエビデンスレベルの高い報告はない。紫斑病性腎炎に対する扁摘パルス療法は、紫斑病性腎炎とIgA腎症の病態が類似していることから、重症例に対する治療選択肢の一つになっている。
重症例に対する扁摘パルス療法は、蛋白尿消失までの期間を短縮し、再発予防に寄与する可能性が示唆され、治療の選択となり得る。