【はじめに】
ガイドラインは公益財団法人日本医療機能評価機構が作成した「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じてエビデンス総体と推奨グレードを設定しています。ちなみにMindsとはmedical information network distribution serviceの略です。
それによるとガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスの SR(Systematic Review)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。
下記のCQとはClinical questionのことです。
【CQ1】急性の嘔吐、下痢の小児を診る場合に鑑別しなければならない疾患は何か?
推奨: 急性の嘔吐、下痢は、腸管の感染症によるものばかりではない。嘔吐、下痢は消化器症状の一つであるが、原因は消化器のみではない。診療初期に鑑別を怠るとその後の検査および治療で大きな問題となる。よって、まずは鑑別が必要であり、表を参照として鑑別を進める。
解説: 感染症による場合は、感染経路を考えて鑑別を行う。
- 近親者に急性下痢、嘔吐患者がいないかどうか
- 汚染された水や食品を摂取していないかどうか
- 最近、海外旅行をしていないか、など
嘔吐、下痢を呈する小児急性胃腸炎以外の疾患と特徴的症状
鑑別される疾患 | 症状 | 指標 | |
---|---|---|---|
消化管以外の感染症 | 肺炎 | 咳、短い呼吸、胸部痛 | 頻呼吸、頻脈 |
尿路感染症 | たびたび起こる排尿障害 | ||
髄膜炎 | 持続性の嘔吐、意識レベルの変化、いらつき、光恐怖症 | 出血性発疹、首の硬直、幼児では泉門の膨隆 | |
急性中耳炎 | 耳痛 | ||
薬物中毒 | 非特異性の筋肉痛、めまい | ショック症状、非特異性の赤発疹、小さな傷などの注入痕 | |
感染症以外の消化管傷害 | 潰瘍性大腸炎、クローン病などの腹腔疾患 | 2週間以上持続する下痢、血便 | 成長障害や体重減少 |
外科的疾患 | 腸閉塞、腸重積、腸管虚血、虫垂炎 | 胆汁様嘔吐、ひどい腹痛、局在化した腹痛、血便 | 腹部膨張、ブルンベルグ徴候、血便、粘血便 |
薬剤性 | 薬剤履歴の確認(抗菌薬など) |
12〜18カ月齢の子供は消化管以外の感染症、非感染性消化管障害でみられる非特異的症状やサインも一般的に呈する。
胃腸炎では高熱(3カ月未満は38℃以上、3カ月以上では39℃以上)が見られるが、消化管以外の感染症の指標でもある。
【CQ2】ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎を鑑別する臨床像はどういうものか?
推奨: 40℃以上の高熱、明らかな血便、強い腹痛、意識障害などの症状は細菌性胃腸炎を示唆し、一方、呼吸器症状はウイルス性胃腸炎を示唆する。血液検査で明確に鑑別することは難しい。細菌性の確定診断に時間が要する場合があるので、臨床像で可能性を考えて迅速に対応することになる。
解説: 血中CRPの亢進は細菌感染を強く示唆している。細菌感染では赤沈や血中IL-6、IL-8の上昇が認められる場合があるが、細菌感染かウイルス感染かの鑑別に用いるにはCRPに比べると低い。総白血球数は鑑別に適していない。
鑑別のポイント
ウイルス性胃腸炎 | 細菌性胃腸炎 | ||
---|---|---|---|
症状 | 呼吸器症状 | 40℃以上の高熱→赤痢など 明らかな血便・強い腹痛・中枢神経症状 (めまい、無気力、意識障害) →赤痢、サルモネラ |
|
検査 | 赤沈 | 種々 | 亢進 |
CRP | 種々 | 高値 | |
血中IL-6・8 | 種々 | 高値 |
【CQ3】便の迅速ウイルス抗原検索は治療方針の決定に有用か?
推奨: 適切な初期治療には便の迅速ウイルス検索は不要である。なぜなら治療はまず脱水症に対するものであり、原因の特定は必要ないからである。
解説: 上記のごとし
【CQ4】急性胃腸炎の小児に対する脱水の重症度評価として胃腸炎の臨床的な諸症状を用いることは推奨されるか?
推奨: 急性胃腸炎の患児の治療においては、脱水の重症度を正しく評価することが重要である。さまざまな理由で体重による脱水の評価が困難な場合でも、患児の臨床症状から水分喪失量を推測することは可能である。したがって、脱水の重症度評価に臨床症状を用いることは推奨される。
解説:
臨床症状による脱水の重症度評価
症状 | 最小限の脱水または脱水なし (体重の3%未満の喪失) |
軽症から中等症の脱水 (体重の3%以上9%以下の喪失) |
重度の脱水 (体重の9%を超える喪失) |
---|---|---|---|
精神状態 | 良好、覚醒 | 正常、疲れている、または落ち着きがない、刺激に敏感 | 感情鈍麻、嗜眠、意識不明 |
口渇 | 飲水正常、水を拒否することもある | 口渇あり、水を欲しがる | ほとんど水を飲まない、飲むことができない |
心拍数 | 正常 | 正常より増加 | 頻脈、ほとんどの重症例では徐脈 |
脈の状態 | 正常 | 正常より減少 | 弱い、または脈がふれない |
呼吸 | 正常 | 正正常または早い | 深い |
眼 | 正常 | わずかに落ちくぼむ | 深く落ちくぼむ |
涙 | あり | 減少 | なし |
口・舌 | 湿っている | 乾燥している | 乾ききっている |
皮膚のしわ | すぐに戻る | 2秒未満で元に戻る | 戻るのに2秒以上かかる |
毛細血管再充満 | 正常 | 延長 | 延長 |
四肢 | 暖かい | 冷たい | 冷たい、斑状、チアノーゼあり |
尿量 | 正常から減少 | 減少 | ほとんどなし |
【CQ5】重症の脱水を呈する小児の急性胃腸炎に対する初期治療は経口補水液よりも経静脈輸液療法が推奨されるか?
推奨: 重度の脱水を正しく評価する必要がある。中等症以下の脱水と評価される場合は、経口補水療法が優先されるべきであるが、体重の9%を超える水分を喪失している重度な脱水が明らかである場合は、ショックの前兆と考え、経口補水療法より経静脈輸液療法を優先することが推奨される。
解説: ショックはもとより、プレショックと思われる症状が認められる場合には、脱水は重度と判断し、初療として経静脈輸液療法が優先されるが、もし患児が意識や全身状態が経口摂取可能な状態になれば、速やかに経口補水療法に移行するとが望ましい。
【CQ6】脱水のない、もしくは中等症以下の脱水のある小児急性胃腸炎に対する初期治療として、経口補水療法は推奨されるか?
推奨: 脱水のない、もしくは中等症以下の脱水のある小児急性胃腸炎に対する初期治療としては、経静脈輸液療法よりも経口補水液による経口補水療法が推奨される。また経口補水療法は、嘔吐や下痢の症状が始まったら、速やかに自宅で開始することが推奨される。
解説: 経口補水液を自宅に常備していない場合には、食卓塩3g、砂糖18gを水1Lに溶解したもので代用できる。この際、柑橘系の果汁を少量加えると、味が調整されて飲みやすくなり、カリウムを補給できる。しかし、手作りの補水液は必ずしも正確でないため、緊急避難的措置として用いるべきである。
【CQ7】軽度〜中等度の脱水のある小児急性胃腸炎に対する初期治療として、どのようにして経口補水液を投与することが推奨されるか?
推奨: 軽症〜中等症のある小児急性胃腸炎に対する初期治療として、4時間以内に不足分の水分を経口補水液で経口摂取することが推奨される。
解説: 経口補水液の投与方法による臨床的効果を比較した論文はない。現段階では既存のガイドラインを参考とし、不足している水分と同量を経口補水液の経口投与により3〜4時間かけて補正することが推奨される。
世界保健機構(WHO)、英国国立医療技術評価機構(NICE)、欧州小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)、米国疾病管理予防センター(CDC)、世界消化器学会(WGO)などのプロトコールがある。
【CQ8】嘔吐症状がある小児急性胃腸炎に対して経口補水療法は推奨されるか?
推奨: 嘔吐症状のある小児急性胃腸炎に対しても経口補水液による経口補水療法は推奨される。
解説: 嘔吐症例に経口補水療法を行う場合には、5mlの経口補水液を5分ごとに投与する。ティースプーン1杯、ペットボトルのキャップ3/4程度の量が5mlの目安である。スポイトやシリンジを用いて投与しても良い。下記の危険信号(Red Flag)がある場合には、速やかに医療機関を受診する。
-
危険信号(Red Flag)
- 見た目に調子が悪そう、もしくはだんだん調子が悪くなる
- ちょっとした刺激に過敏に反応する、反応性に乏しいなどの反応性の変化
- 目が落ちくぼんでいる
- 頻脈
- 多呼吸
- 皮膚緊張(ツルゴール)の低下
- 手足が冷たい、もしくは網状チアノーゼ
- 持続する嘔吐
- 大量の排便
- 糖尿病、腎不全、代謝性疾患などの基礎疾患がある
- 生後2カ月未満
- 生後3ヶ月未満の乳児の39℃以上の発熱
- 黄色や緑色の胆汁性嘔吐、もしくは血性嘔吐
- 反復する嘔吐の既往
- 間欠的腹痛
- くの字に体を折り曲げる、痛みで泣き叫ぶ、もしくは歩くと響くなどの強い腹痛
- 右下腹部痛、特に心窩部から右下腹部に移動する痛み
- 血便もしくは黒色便
【CQ9】経口補水液摂取を嫌がる小児急性胃腸炎患児にたいして、代替策として経口補水液以外の飲料摂取は推奨されるか?
推奨: 経口補水液を嫌がって十分な量が摂取できていない場合には、明らかな脱水症状がなければ、経口補水液以外の水分を摂取してもよい。ただし、脱水徴候や意識レベルの変調が認められた場合には速やかに医療機関を受診すべきである。
解説: 脱水を認めない場合は塩分を含んだ重湯・お粥、野菜ジュース、チキンスープなどで代替しても良い。避けるべき飲料は、炭酸飲料、市販の果物ジュース、甘いお茶、コーヒーなどである。
本邦では、味噌汁の上澄みや塩を味付けした重湯を与える習慣があるが、重湯は5%程度の糖濃度であるため、半分程度に希釈し、100ml当たり0.3〜0.4gの塩で味付けするとNa濃度が51.3〜68.4mEq/Lとなるため、経口補水液に近い組成になる。味噌には100g当たり182.6〜221.7mEqのNaが含まれている。味噌汁には出汁1Lに対し、味噌100g程度が入っている。したがって、味噌汁の上澄みを1/2〜1/3程度に希釈することで、Na濃度は経口補水液に近くなる。味噌自体にはカリウム8.7〜23.8mEqが含まれ、希釈するとカリウムも希釈されてしまうが、出汁や具材から出たカリウムが加わる。経口補水液はNa-ブドウ糖共輸送を利用して、効率的に吸収されるが、グルコースの代わりにアミノ酸が作用して、Naを吸収することも可能である。
味噌汁には味噌のアミノ酸のほか、具材からでたアミノ酸も含まれるため、希釈した味噌汁の上澄みも理論的には経口補水液と同様のメカニズムでNaと水が吸収される効果が期待できる。ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの野菜1kgを煮崩れしないように煮て1Lの野菜スープを作ると、野菜から抽出アミノ酸とカリウムが抽出され、カリウム濃度が30〜40mEq/Lとなり、このスープに塩を3〜4g加えると理論的には希釈した味噌汁の上澄みと同様の効果が期待できる。
リンゴジュースが経口補水液の代わりになるという話があるが、「急性胃腸炎の治療にリンゴジュースの方が良い」という論文ではない。脱水を起こしていない、あるいは軽度に止まっている急性胃腸炎患児であれば、水分摂取は必ずしも経口補水液に固執しなくてもよりという趣旨である。
【CQ10】急性胃腸炎の乳児に対して母乳栄養は継続してよいか?
推奨: 急性胃腸炎の乳児に対して母乳栄養は継続してよい。 経口補水液による脱水補正中であっても、母乳を併用した方が重度脱水が少ないというエビデンスがあり、むしろ積極的に母乳栄養を継続すべきである。
解説: 根拠となっている文献は古く、エビデンスレベルは高くないが、母乳継続は安全であり、乳幼児の下痢の治癒、栄養改善に効果がある。
【CQ11】急性胃腸炎の小児に対してミルクや食事を早期に開始してよいか?
推奨: 経口補水療法によって脱水が補正されればミルクや食事は早期に開始してよく、長時間の食事制限は推奨されない。食事の内容も年齢に応じた通常の食事で良い。食事制限をしても治癒までの期間に変わりはなく、むしろ体重の回復を遅らせる可能性がある。
解説: 早期に食事を再開することで予想外の点滴頻度、嘔吐頻度、慢性下痢への移行、在院日数に変わりはなく、早期に栄養を開始することによる有害事象はなかった。経口補水療法によって脱水が補正されれば、絶食時間を置くことなく年齢に応じたミルクや食事を再開することが妥当である。
【CQ12】急性胃腸炎の乳児に対してミルクは希釈しない方がよいのか?
推奨: ミルクは希釈しないことを推奨する。ミルクを希釈しても治癒までの経過に利点はない。
解説: 既存のガイドライン(CDC:2003、WHO:2005、NICE:2009、コクランレビュー:2013、ESPGHAN:2014)でも経口補水療法を行って脱水を補正したのちの食事療法として希釈乳を投与することは推奨していない。
【CQ13】急性胃腸炎の小児に対して不適切な食事はあるか?
推奨: エビデンスは十分ではないが、高脂肪の食事や糖分の多い飲料は避けることが推奨される。
解説:
各ガイドラインにおける「不適切な食事」の記載
英国国立医療技術評価機構 (NICE) |
脱水補正中は、固形物を与えない。 下痢が止まるまで、果汁ジュースや炭酸飲料を与えない。 |
---|---|
欧州小児栄養消化器肝臓学会 (ESPGHAN) |
迅速な経口捕液と年齢相当の普通食を勧めている。 |
米国疾病管理予防センター (CDC) |
糖分の多い食事は避けるべきである。なぜなら、高浸透圧で下痢を悪化させるからである。 |
炭酸飲料、ジュース、ゼラチンなどの糖分の多い飲み物は避けるべきである。 | |
脂肪の多い食事も避けるように勧めているガイドラインもあるが、脂肪なしでのカロリー維持は難しく、脂肪には蠕動運動を減らす有益な効果があるかもしれない。 | |
世界消化器病機構 (WGO) |
果汁の缶ジュースは避けるーこれらは高浸透圧で下痢を悪化させる。 |
米国小児科学会 (AAP) |
脂肪の多い食事、糖分の多い食事は避けるべきである。 |
【CQ14】急性胃腸炎の小児に対して乳糖除去は有効か?
推奨: 乳糖除去の有効性を示すエビデンスはあり、下痢の期間を短縮する。しかし、コストと効果のバランスを考慮するとすべての急性胃腸炎小児に最初から使用する必要はない。(使用しても良いが積極的には推奨しない)
解説: 発症7日以内の急性胃腸炎症に全例に最初から乳糖除去を推奨する必要はないと考えられる。なお、14日以上の持続性下痢症における無作為化比較試験においては乳糖低減乳の有用性が示されている。
【CQ15-1】急性胃腸炎の小児に対して整腸薬プロバイオティクスは有効か?
推奨: プロバイオティクスは下痢の期間を短縮する。ただし、エビデンスのある薬剤は、本邦で販売されているものと菌種や菌量が異なっている。
解説: 有効菌種はLactobacillus rhamnosus GG (L. rhmunosus GG)、およびSachaaromyces boulardii (S. boulardii)と報告されているが、本邦の製剤にはこれらの菌種は含まれていない。効果を発揮する菌量は1010(CFU/日)以上とされているが、本邦での菌量は106〜1010と少ない。今後の研究が必要である。
各ガイドラインのプロバイティクスに対する評価
英国国立医療技術評価機構 (NICE) |
プロバイオティクスは下痢の期間や頻度を減らす利点が報告されているが、多くの研究は方法に限界がある。 |
---|---|
プロバイオティクスの種類や投与法に大きな差がある。 | |
効果と安全性を評価するために、英国で質の高い無作為比較試験が実施されるべきである。 | |
欧州小児栄養消化器肝臓学会 (ESPGHAN) |
下痢の期間は短縮したが、入院期間を短縮する効果は弱かった。 |
効果のある株はL.rhamnosusとboulardiiであった。 | |
米国疾病管理予防センター (CDC) |
Lactobacillus属は、感染性下痢の治療として有効で安全である。 |
本邦の製剤の比較
【CQ15-2】急性胃腸炎の小児に対して止痢薬・止瀉薬は有効か?
推奨: 止痢薬・止瀉薬は推奨されない。止痢薬については有効とのエビデンスが乏しい。止瀉薬(ロペラミド)は乳児でイレウスの発症が報告され、6ヶ月未満は禁忌、2歳未満は原則禁忌となっている。(使用しないことを強く推奨す。
解説: その他、日本で使用されるタンニン酸アルブミン(タンナルビン)、天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)に関してはエビデンスレベルの高い文献は見つからず、推奨する根拠は乏しい。
【CQ15-3】急性胃腸炎の小児に対して制吐薬は有効か?
推奨: 有効とする報告もあるがエビデンスレベルは高くなく一律に使用する必要はない。使用する際は有害事象を来さないように投与量に注意する。(使用しても良いが積極的な推奨はしない)
解説: 本邦で使用可能な薬剤ドンペリドン(ナウゼリン)とメトクロプラミド(プリンペラン)は急性胃腸炎の嘔吐に対して有効とする報告はある。しかしながら、これらの薬剤には錐体外路系や心電図異常の有害事象が報告されている。急性胃腸炎の嘔吐は自然治癒するものであり、有効性とのバランスを勘案して使用を決めなければならない。
【CQ15-4】急性胃腸炎の小児に対して抗菌薬は有効か?
推奨: 小児急性胃腸炎の多くはウイルス性であり一律に抗菌薬を使用することは推奨されない。(投与しないことを強く推奨する)
解説: 重篤な血便などがあってサルモネラや赤痢などの細菌感染症が疑われる場合、生後6ヶ月未満の免疫不全、最近の海外渡航歴がある場合に限り、抗菌薬の使用を検討されるとされている。
抗菌薬の薬理作用を考えると、ウイルス性の急性胃腸炎では腸内細菌叢を破壊することによる下痢の誘発または菌交代現象の誘発を起こしうるため、抗菌薬の一律な治療は推奨されない。
【CQ15-5】急性胃腸炎の小児に対して漢方薬は有効か?
推奨: 急性胃腸炎小児に対する漢方薬の使用は、有効とするだけのエビデンスがなく、現時点で推奨度を決めることができない。
解説: 本邦の報告では五苓散、柴苓湯、真武湯、黄苓湯の報告がある。有効性を評価するためには、座薬などの製剤開発や質の高い大規模な臨床研究が望まれる。
【CQ16】小児の急性胃腸炎発症抑制にたいしてロタウイルスワクチンは有効か?
推奨: 小児の急性胃腸炎発症抑制にロタウイルスワクチンは推奨される。現在利用できる2つのロタワクチンは共に重症ロタウイルス胃腸炎に対する予防効果は先進国において約90%、あるいはそれ以上である。
解説: ロタウイルスワクチンの安全性、特に腸重積発症との因果関係は重要である。
2013年、WHOは、現在のロタウイルスワクチンは腸重積発症のリスクは小さいため(初回接種後およそ1〜2/100,000名の増加)、安全で忍容性は高いと考えられる。したがって、「ロタウイルスワクチンは、世界中の全ての国の予防接種プログラムに導入されるべきである」とポジションペーパーを発表した。米国予防接種諮問委員会(ACIP)でも、死亡や入院、そして救急外来受診といった重症ロタウイルス胃腸炎の疾病負担を考慮するとワクチン接種の有益性は危険性をはるかに上回ると結論づけた。
【CQ17】小児の急性胃腸炎において感染拡大を防止するための対策をどうするか?
推奨: 小児急性胃腸炎では、手洗いの徹底、そしてオムツや汚染された衣類の次亜塩素酸消毒剤などによる消毒が感染拡大防止の基本であり最も重要である。
解説: 小児のウイルス性胃腸炎の主要な原因微生物であるロタウイルスとノロウイルスの感染経路は、ヒトあるいは環境表面などを介した経口(糞口)感染であり、その主な伝播は接触感染である。ロタウイルス感染者の下痢便1gにはおよそ1010個と多量なウイルスが存在する。
また、ロタウイルスは石鹸やアルコールに対して比較的耐性であり、環境中でも安定で手の表面では数日間、器物の表面では1〜10日間にわたり感染力を保持し、そしてわずかなウイルス粒子でも感染する。ロタウイルス感染症小児の30%は下痢症状が初めってから25〜57日後にもウイルスを排泄していた報告がある。
しかし、下痢症状が改善してもおよそ1ヶ月は登園できないとすることは現実でない。日本小児科学会は登園の基準を、「症状のある間が主なウイルス排泄期間なので、下痢、嘔吐症状が消失したのち、全身状態の良い者は登校(登園)可能であるが、手洗いを励行する」とした。