【概念】
女児にのみ発症する手の常同運動が目立つ当初は進行性で慢性の移行する神経疾患です。
【原因】
X染色体長碗に位置するmethyl-CpG-binding protein(MECP2)遺伝子の異常が原因です。この遺伝子はDNAのメチル化に関与して、遺伝子の発現に重要な役割を担っています。男児では症状が重くなり致死的となるため基本的には生まれてくることはありません。しかしながら近年、男児でも非定型的な症状を示す例が報告されています。その他の遺伝子としてX染色体上のCDKL5や14番染色体上のFOXG1遺伝子異常もレット症候群の原因遺伝子になりえます。
【頻度】
女児1万人あたり0.5〜0.8人の頻度で発生します。
【症状】
ここでは典型的なレット症候群の症状を記載します。しかし、非定型的な症状を示す例も多く、重症型、軽症型も存在します。
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1. 退行
生後6ヶ月は正常発達をしてその後発達停止から退行していきます。 -
2. 手の合同的運動の消失
手を完全に使用しなくなったのではなく、手を使うことが少しでも下手になった時点で判定して良いことになっています。 -
3. 手の常同運動とその他の常同運動
最も多いのは、腕の前で手を洗うか、絞るように両手を擦り合わせるように動かすものです。手の常同運動の他にも口や身体を含めたさまざまな部位の常同運動が認められます。 -
4. 言語コミュニケーションの消失
必ずしも明確な単語でなくても、アーアー、ウーウー、バーバーなどの音声でも構いません。以前よりできなくなれば診断基準を認めます。 -
5. 歩行障害・粗大運動の障害
ここで言う歩行障害は、自力歩行ができないと言うレベルから、歩行時にふらつきがあるなどの異常を認めるレベルまで含めます。
粗大運動は、身体の運動の中で、身体移動にかかわる体幹・四肢の運動のことを指します。7〜8割程度の患者さんは支持なく座ることが可能で、4割程度は一人で支持なく10mほど歩くことが可能になります。しかし、正常な歩行ではありません。成人では20%が歩行可能と言われています。 -
6. 発育障害と小頭症
年齢が上がるにつれてBMIが正常を下回っていきます。身長も7歳以上になると➖3SD以上下回ります。
頭囲は出生児では正常ですが、後頭部の成長が遅くなります。 -
7. てんかん
約60%程度にてんかんを合併します。あらゆる種類の発作が出現します。 -
8. 自閉症、行動の問題
自閉症と思われている子どもの中にレット症候群がいますので注意が必要です。自閉症では視線が合いませんが、レット症候群ではじっと見つめることがよく見られます。
突然、激しく泣いたり叫んだりすることがあります。不安、痛み、不快などを表現していると思われます。
レット症候群の子は排泄に敏感で、尿が出ると泣くことで知らせたりします。
空気を呑む呑気が見られお腹がパンパンになって苦しくなることがあります。胃食道逆流現象による不快感を伴うこともよく見られます。 -
9. 筋緊張異常、不随意運動
生直後から低緊張を認めることが多く、多くは5ヶ月までに首が座りますが、約半数の患者さんは5歳頃まで絵に筋緊張の低下が見られます。やがて徐々に緊張が亢進して痙縮も目立つようになります。
不随意運動としては舞踏病、アテとーゼ、ミオクローヌス、ジストニア、振戦やパーキンソン病のような症状(安静時振戦、寡動・無どう、強剛、姿勢反射の低下による姿勢の不安定)がみられます。 -
10. 睡眠障害
高率に睡眠障害を認めます。メラトニン系の薬剤がよく使用されます。 -
11. 痛覚鈍麻と自傷行為
感覚鈍麻の頻度は65〜81%と報告されています。
自殺企図を伴わない自分を傷つける行為を自傷行為と言いますが、頭を叩いたり、顔を叩いたり、手やその他の身体の部分を噛んだり、髪の毛をひっぱったりするような行為が見られます。 -
12. 循環器の問題―心機能と血管調節障害
突然死の割りあいが全死亡の20〜25%で健常者の300倍のリスクがあると推定されています。心機能の低下や不整脈が報告されています。
自律神経の機能障害や血管調節障害のため手足が冷たくなることがあります。 -
13. 呼吸障害
息を堪え、交互に過呼吸と無呼吸、深い努力呼吸、異常に早く浅い呼吸などが見られます。無呼吸は幼児及び10歳くらいまでの幼少時に、声紋が上気道を遮断したのちに強く吐き出そうとする呼吸(バルサルバ型)は18歳以降に多いと報告されています。 -
14. 嚥下障害
約44%に摂食障害を呈するとされています。 -
15. 便秘・消化管運動障害
消化管蠕動運動障害、胃食道逆流現象、胃蠕動運動障害の低下と弛緩、咀嚼や嚥下困難、便秘、体重不足、肥満が高頻度みられます。 -
16. 思春期・第二次性徴、内分泌
身長、体重などの成長は小さいですが、二次性徴や思春期に関しては特徴なさそうです。 -
17. 整形外科的問題
足部の変形、股関節異常、脊椎変形などを伴いやすいです。 -
18. 歯科・咀嚼・歯ぎしり
先天性の歯の特徴的な異常はないとされますが、歯ぎしり、歯と口腔の外傷、流涎、歯肉炎およびう歯が多いとされています。 -
19. リハビリテーションについて
レット症候群に特異的リハビリテーションはありません。脳性麻痺に対するものが最も参考になります。
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第1期:停滞期(生後6〜18ヶ月から数ヶ月)
ハイハイや歩行と一体どう運動の異常に気づかれます。喃語や数語の有意語が出現した後、言語機能の発達が見られず、不機嫌に泣くことが多くなります。視線が合わなくなります。
第2期:退行期(1〜4歳から数ヶ月)
短期間の発達停滞期ののち、運動機能や言語機能の急速な対向が見られます。手で食べ物を口に運ぶなど合理的な手の運動機能がなくなり、手もみ様の反復運動が出現します。睡眠時には見られません。運動失行は著名になり不安定になり失調様になります。言葉を話すことが難しくなり、周囲とのコミュニケーションをもとうとしなくなります。睡眠覚醒のリズムが乱れ不機嫌なことが多くなります。無呼吸や過呼吸が覚醒時に認める様になります。
第3期:仮性安定期(2〜10歳に始まり、数年から数十年持続)
急激な退行の後、安定期に入ります。手の常同運動や呼吸異常は顕著に見られますが、行動上の易刺激性は減少します。視線が合うようになり、相手の目をじっと見て凝視する仕草はレット症候群の特徴的なものです。側弯症が進行して整形外科的な対応が必要になってきます。
第4期:晩期機能低下期(10歳以上)
動きが減少し、肺養成筋萎縮が進行し、関節変形が見られるようになります。痙縮、固縮、ジストニアなどの筋緊張異常により側弯症が進行します。運動機能が低下しても視線を合わせようとする行動は変わりません。
【診断】
2010年に以前の診断基準が改定されて簡素になっています。
レット症候群診断基準改訂版(2010年版)
生後頭囲の成長速度が遅れてきた時も診断を考慮する
A 典型的・古典的レット症候群の診断要件
- A-1. 退行のエピソードがあること(ただしその後、回復期や安定期が存在する)
- A-2. すべての診断基準とすべての除外診断基準を満たすこと
B 非定型的・亜型レット症候群の診断基準
- B-1. 退行のエピソードがあること(ただしその後、回復期や安定期が存在する)
- B-2. 4つの主要診断基準のうち2つ異常を満たすこと
- B-3. 11の支持的診断基準のうち3つ以上を満たすこと
主要診断基準
- 1.合理的な手の機能の喪失:意味のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること
- 2.音声言語コミュニケーションの喪失:音声言語を習得後、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること
- 3.歩行異常:歩行障害、歩行失行
- 4.手の常同運動:手をねじる・絞る、手を叩く・鳴らす、口に入れる、手を洗ったりこすったりするような自動運動
典型的レット症候群診断のための除外診断基準
- 1.明らかな原因のある脳障害(周産期・周生期・後天性の脳障害、神経代謝疾患、重度感染症などによる脳損傷)
- 2.生後6ヶ月までに出現した精神運動発達の明らかな異常
非典型的レット症候群のための支持的診断基準
- 1.覚醒時の呼吸障害
- 2.覚醒時の歯ぎしり
- 3.睡眠リズム障害
- 4.筋緊張異常
- 5.末梢血管運動反射異常
- 6.側湾・前弯
- 7.成長障害
- 8.小さく冷たい手足
- 9.不適切な笑い・叫び
- 10.痛覚への反応鈍麻
- 11.目によるコミュニケーション、じっと見つめるしぐさ
【鑑別診断】
Angelman症候群、Pitt-Hopkins症候群、自閉症、知的障害を伴う脳性麻痺などがありますが、上記の「年齢依存性の臨床経過」と「相手の目をじっと見る行動」はレット症候群に特徴的です。
【治療】
現時点では全て対処療法及びリハビリテーションになります。しかし、現在アメリカでは各種の薬剤や化合物の治験が行われています。
【医療助成制度】
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①医療助成
乳幼児医療制度の他、訪問看護利用助成制度、小児慢性特定疾病医療助成、障害児医療助成、自立支援医療(精神通院医療)などがあります。 -
②手帳制度
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などがあります。 -
③手当類
手当類では特別児童扶養手当、障害児童福祉手当、特別障害者手当、重症心身障害者手当、障害者基礎年金があります。 -
④介護給付など障害者総合支援法によるサービス
障害者福祉サービス、補装具などのサービスがあります。