咳の機序
咳自体は異物を体外に排泄するための防御反応ですので、基本的には押さえる必要はありません。咳により体力を消耗したり、眠れなくなることで問題になることがあります。咳き込んで吐くことがありますが、その後には少し咳が治ることがあると思います。これは咳き込み嘔吐により痰が排泄されることにより楽になるからです。吐くことが良いこととは言いませんが、咳を無理やり押さえる必要は必ずしもないということです。
咳反射の中枢は延髄の呼吸中枢の一部に存在しており、異物や痰などの刺激が気道や気管に作用すると、そのインプットが咳中枢の受容体を刺激します。すると神経回路が興奮して、結果として呼吸筋を収縮させ咳を起させるのです。その回路にはオピオイド受容体のほか、NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体、セロトニン受容体やグリシン受容体などの色々な受容体が関与しています。
麻薬性鎮咳剤
麻薬性鎮咳剤にはコデインとジヒドロコデインがあります。これらは延髄の咳中枢に作用し強力に咳を止める作用があります。構造がモルヒネと似ていて、乾いた咳に有効です。副作用として便秘、眠気、眩暈、呼吸抑制の可能性があり、長期・大量服用で依存を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。12歳未満への投与は禁止されています。
鎮咳剤(非麻薬性)
咳を引き起こす咳中枢の抑制作用や気道を広げる作用により、咳などの呼吸症状を緩和するとされる薬剤です。これらの薬剤は咳中枢の受容体に直接作用して、咳受容体の閾値を下げたり、神経回路の興奮を抑えることにより鎮咳効果をもたらします。
主な鎮咳剤の種類
| 強さ | 商品名 | 一般名 | 効果持続時間 | その他 |
|---|---|---|---|---|
| 最強 | メテバニール | オキシメテバノール | 6〜8時間 | 麻薬/悪心・嘔吐に注意 |
| 強 | コデインリン酸 | コデインリン酸 | 4〜6時間 | 高頻度で便秘があり |
| 中 | メジコン | デキストロメトルファン | 3〜4時間 | シロップには気道分泌促進作用あり |
| 中 | アストミン | ジメモルファン | 記載なし | 糖尿病には慎重投与 |
| 中 | レスプレン | エプラジノン | 2〜6時間 | 強力な去痰作用を持つ |
| 弱 | アスベリン | チペピジン | 5〜6時間 | 副作用がほとんどない |
フスコデ配合錠はジヒドロコデインリン酸、メチルエフェドリン、クロルフェニラミンを含みます(気道を広げて、アレルギー症状も緩和してくれる)。
コデイン系の鎮咳剤は12歳未満は使用してはならない(禁忌)となっています。
鎮咳剤の有害事象
デキストロメトルファン(メジコン)はNMDA 受容体を阻害します。NMDAは興奮性の伝達物質であるグルタミンの受容体です。そのため、過量服用するとケタミンのような多幸感、不快感、幻覚を引き起こす可能性があります。メジコンのオーバードースが問題になるのはこのような症状がみられるためなのです。また、悪心・嘔吐・めまい・無気力・小脳失調症などの副作用が知られています。そのほかにも、セロトニン作動活性により、選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)やモノアミン酸化酵素阻害薬などとの併用でセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。この作用は4歳以上の小児では通常量では起こりません。4歳未満でこれらの薬剤を使用する場合には注意が必要です。
チペピジン(アスベリン)でも眠気、悪心・嘔吐や便秘などの副作用が報告されています。
去痰剤とは
去痰薬(きょたんやく)は、粘り気のある痰(たん)をサラサラにして粘度を下げたり、気道粘膜の働きを整えて痰の排出を助けたりする薬です。
主な去痰剤の種類
| 種類 | 薬剤名 | 商品名 | 作用機序 |
|---|---|---|---|
| 粘液溶解薬 | アセチルシステインなど | ムコフィリンなど | 気道粘液中のジスルフィド結合を開裂させることによって痰を細かくし、痰の粘稠度を下げる |
| 粘液修復薬 | L-カルボシステインなど | ムコダインなど | 痰のムチン成分のうち、シアル酸フリードコムコースと呼ばれる成分によって粘性が変わるが、粘液修復薬はそれらの構成比を正常化し、正常な生理的気道液に近い状態にすることで、痰を出しやすくする |
| 気道潤滑薬 | アンブロキソール塩酸塩など | ムコソルバンなど | 肺サーファクタントの分泌を促進することで気道粘膜を潤滑化し、痰と気道粘膜の粘稠性を低下させ、たんが出やすくする |
| 気道分泌細胞正常化薬 | フドステインなど | クリアナールなど | 粘液を分泌する気道の杯細胞の過形成を抑制することで、粘液が過剰生産されるのを防ぐ |
去痰剤の臨床効果のエビデンス
咳嗽を減少させる効果が明らかな薬は去痰剤にはありません。すべて誤差範囲です。
フドステインは比較的新しい薬であり、十分なエビデンスはありません。
去痰剤の有害事象
2歳以上の小児ではアセチルシステイン、L-カルボシステイン、アンブロキソールでは安全性が証明されています。
2歳未満では、L-カルボシステインとアセチルシステインでは「respiratory paradoxical adverse drug reaction」が報告されています。これは去痰剤の作用により気管支内の分泌物が増加し、その結果、気管支が閉塞して逆に呼吸状態が悪化するというものです。ヨーロッパでは2歳未満への投与を禁止している国もあります。そのほかには、消化器症状(腹部違和感、悪心、便秘)が見られることもあります。
アンブロキソールではわずかではありますが、重症薬疹の報告があります。
気管支拡張薬の有効性
急性発症の小児の咳嗽治療において、ハチミツ、サルブタモール(ホクナリンなど)、プラセボの有効性を比較した試験では、ハチミツが最も有効であり、サルブタモールは効果がないという結果でした。ただし、気管支喘息の素因を持つ患者においては有効性が期待できます。
気管支拡張薬の有害事象
頻脈、動悸、不整脈(心室期外収縮)などの心刺激作用や顔面紅潮などがあります。そのほかにも、頭痛、筋硬直、興奮、不眠、耳鳴り、不安感などの精神症状や、悪心・嘔吐、食欲不振、胸焼けなどの消化器症状も出ることがあります。また、β2刺激薬による低カリウム血症の報告もあります。
ステロイド内服は効果があるのか
ステロイドの薬理作用としては、好酸球アポトーシスの促進、好中球アポトーシスの抑制などは、分泌物産生減少に働きます。そのほかに、ステロイドは血管収縮効果を介して気道粘膜の浮腫改善と血管透過性亢進の減少作用を有し、さらに吸入で投与した場合にはマスト細胞数を減らすという作用があります。しかし、急性下気道感染症の非喘息患者を対象にした報告では有意に短縮しないことが報告されています。ただし、感冒に近い病態のクループ症候群に対しては有効であることが示されています。喘息発作に対しても有効です。










