【リュウマチ熱とは】
急性リュウマチ熱とは溶連菌感染から数週間から数ヶ月後に発症する非化膿性炎症疾患です。つまり細菌感染症ではないため、それ自体には抗生剤は無効ということです。
以前はよく見かけましたが、特に小児科領域では迅速診断により的確に診断・治療できるようになったためその発症頻度は劇的に減少しました。そのため、以前の心臓外科ではリュウマチ熱による弁膜症の手術が多かったのですが、今では虚血性心疾患が多くなっています。日本はローリスク国ですが、的確な診断および治療ができない国では今でもリュウマチ熱の発症は多いことがわかっています。
【原因】
溶連菌に感染したのち溶連菌の成分に対する免疫反応がヒトの細胞を間違って攻撃してしまうために生じる病気です。これを分子相同性(molecular mimicry)と呼びます。詳しい話をしますと溶連菌の中にあるMタンパクは100種類以上ありますが、そのうち数種類(M3、5、6、14、18、19、24、29、)がリュウマチ熱を誘発させると言われています。
ただ、患者さん側にもリュウマチ熱にかかりやすい体質があるのではないかと言われています。
【症状・診断基準】
以前からJonesの診断基準が使用されています。医師国家試験にもよく出題されます。2015年に米国心臓協会(American Heart Association: AHA)によって改訂されたJonesの基準が主に用いられています。この名前よく国家試験にでます。
1) 多関節炎
約70%の割合でみられます。膝、足、手、肘などの大中関節多いです。移動性の多関節炎で、2〜3週間で治癒し、関節リュウマチと違って変形、拘縮などの関節障害は残しません。
2) 心炎
約半数で認めます。軽傷から心不全をきたすような重症例まであります。僧帽弁膜障害が65%、大動脈弁障害が約5%、両者の合併(連合弁膜症)が約30%に認めます。心炎自体が慢性化することはありませんが、弁膜に瘢痕が残ると弁膜不全と狭窄症になってしまいます。
3) 舞踏病
約5%に見られます。7〜15歳の女児に多く、手、足、体幹などに不規則に短く、くねくねとしたまるで踊っているような動きが出現することです。またその状態が出現する前に、突然怒りっぽくなったり、しかめっ面をしたりといった状態になることがあります。脳にある基底核、尾状核の障害により生じます。協調運動障害や情緒不安定、筋緊張低下などを伴います。
4) 輪状紅斑
急性期の約5%にみられ、体幹部、大腿部、上腕部などに出現します。辺縁不整で痒みはなく、一過性移動性です。
5) 皮下結節
炎症所見のない(赤み、痛みなどがない)小さな結節で、可動性で無痛性です。関節伸側部や後頭部、脊椎の突起部付近などにでます。
6) その他
そのほかには発熱、関節痛、リンパ節の腫れ、倦怠感、鼻出血、腹痛などがあります。
【検査】
特異的な検査はありません。炎症反応である白血球数、分画、CRP赤沈などが病気の活動性の指標として使われます。溶連菌にかかった証明としてASO(抗ストレプトリジンO抗体)、ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)などが測定されますが、観戦後1〜2週後から上昇し、3〜4週で最高値になります。
心臓の弁膜症の評価には超音波検査(エコー)や心電図を測定します。
【治療】
1. 溶連菌に対する治療
抗生剤(アモキシシリン)を10日間服用します。
2. リュウマチ熱に対する治療
a) 多関節炎:抗炎症剤であるアスピリン、イブプロフェン(ブルフェン)、ナプロキセン(ナイキサン)などが使用されます。最低でも1〜2週間は必要となることが多いです。90%は12週までに症状が消失しますが、5%は6ヶ月以上の治療が必要です。
b) 心炎:中等症までの心不全では抗利尿薬や水分制限を、重症例ではアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬症状が使用されます。重症心筋炎に対してはステロイドが使用されることが多く、それでも改善しない場合はメチルプレドニゾロンによるパルス療法が行われることもあります。
c) 舞踏病
多くは自然に回復します。ハロペリドール、抗てんかん薬であるバルプロン酸やカルバマゼピンなどが症状緩和のために用いられることがあります。重症例ではステロイドも併用されます。
3. 再発防止のための治療
溶連菌に再感染すると心炎を反復し重症化し後遺症が残ることがあります。そのため、抗菌薬の長期予防内服が行われます。
心炎がなくても5年間あるいは20歳まで、心炎があり弁膜症街がない場合は10年間あるいは20歳まで、弁膜症街を残した場合は10年間あるいは40歳まで、ときには一生服用する場合もあります。
【予後】
上記のごとく、多関節炎は通常1ヶ月で軽快して後遺症が残りません。心炎は1ヶ月以内に適切な治療が行われれば一過性になる可能性が高いです。遅くなると弁膜症を残す可能性が高くなります。
舞踏病は2〜3週間で軽快しますが重症例では数ヶ月持続することがあります。
【鑑別診断】
鑑別診断で最も重要なものが溶血性レンサ球菌感染後反応性関節炎です。
症状はリュウマチ熱の関節炎に似ていますが、移動性でなく抗炎症薬による症状消失までが短いとされています。血液の炎症反応もリュウマチ熱の関節炎に比べ低値であること、Jonesの診断基準を満たさないことなどで鑑別できます。