【はじめに】
ガイドラインは公益財団法人日本医療機能評価機構が作成した「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じてエビデンス総体と推奨グレードを設定しています。ちなみにMindsとはmedical information network distribution serviceの略です。
それによるとガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスの SR(Systematic Review)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量し ,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。
下記のCQとはClinical questionのことです。
ガイドラインのCQをまとめました。
【CQ1】小児チック症としての妥当な症状は何か?
推奨: 単純性運動性チックは、瞬き等の目や顔の動きが多く、複雑性チックは手でたたく、触るなどが多い。単純音声チックは、喉を鳴らす、音を出す、花をすする等が多く、複雑音声チックは、他人の言葉を繰り返す反響言語(エコラリア)、反復言語(パリラリア)、汚言症(コプロラリア)が多い。以上を妥当な症状として提案する。
解説: チックには運動チックと音声チックがあり、それぞれ、持続が短く明らかに無意味な単純チックと、持続が長く意味があり目的がある様に見える複雑チックに分けられる。
チックの定義
- 暫定的チック症:チック症の一般的な診断基準を満たすが、12ヶ月以上持続しないチックである。4〜5歳前後に頻度が多く、通常は「瞬き」「しかめ面」「首を振る」という形が多い。数ヶ月以上にわたって寛解と再発を繰り返す。
- 持続性(慢性)運動性または音声チック:1種類または多彩な運動チック、または音声チックが病気として存在したことがあるが運動チックと音声チックの両者がともに見られることはない。チックの頻度は増減することがある。最初にチックが始まってから1年以上は持続するが、トゥレット症の基準を満たしたことはない。発症は、ほとんどが小児期か青年期である。音声チックの発症前に、運動チックの既往があることが多い。
- トゥレット症:多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。チックの頻度は増減することがあるが、最初のチックが始まってから1年以上は持続している。
【CQ2】どの時期に治療を開始することが推奨するか?
推奨:
- 開始時期や年齢の決まりはない。
- チック症の重症度を併存症考慮して治療方針を決定することが望ましい。
解説: 自然寛解する予測因子としては、① 両親にチック症があるが小児期にて寛解している、② 6〜8歳に発症している、③ 汚言症がない•上下肢に症状がない。予後が悪くなる因子としては、① 複雑運動性チックと反響反復行為、② ADHDと怒り発作、③ 複雑音声チック症と汚言、④ OCD(強迫性障害)の併存症、がある、トゥレット症の完全寛解は少ない。治療介入は早期がよく、予後を決定する併存症の予防をする必要があると考えられる。薬物療法の多くは6歳以上が適応である。認知行動療法(CBT)、特にはビットリバーサル(HBT)を中心とするチック症のための包括的行動介入(CBIT)は8〜9歳ころから可能と言われている。
【CQ3】小児チック症への生活指導や疾病教育は推奨されるか?
推奨: 患児、家族に対するチック症への生活指導や疾病教育は推奨される。
解説: チック症は親の育てかたや患児の気持ちに問題があって起こるのではないことを確認する。併存症(ASD、ADHD、OCD)について説明し、自然経過として症状の種類や部位や頻度などがしばしば変動するため一喜一憂しないこと。症状は不安や緊張が増大した時に増加しやすいが、一方で、一定の緊張度で安定している時、集中して作業している際には減少する傾向がある。また、スマートフォンやタブレットでの動画鑑賞、ゲームなどの際には症状が増悪する場合もあるため、その場合は使用時間を短くする。チックは5〜6歳頃に発症することが多く、10歳前後に症状が最も強くなり、それ以降年齢が上がると軽快する割合が59〜85%とされている。以上のことを患児、家族に伝え安心感を与えることが必要である。
【CQ4】小児チック症の環境調整は推奨するか?
推奨: チック症に対する家庭や学校における環境調整は推奨される。
解説: CQ3で述べた心理教育を家庭や学校でも行い、患児が安心して過ごせる様に対応する。また、併存するASDやADHDなどに対する環境調整も併せて必要である。
【CQ5】一般小児科医が初期治療として薬物治療(を行うこと)がを推奨されるか?
i.推奨される処方内容は?
ii.漢方薬は推奨されるか?
推奨: 先ずは環境調整や心理教育を行うことが推奨される。上記を行っても改善の見られない症例(中等症〜重症例)が対象となる。
i.アリピプラゾールやリスペリドンが推奨される。
ii.漢方薬の有効性は明確に示されたものはない。
解説: CQ3、CQ4の患者教育を行い、軽快が見られない場合は上記の薬剤を使用することを考慮する。αアドレナリン受容体作動薬に関してはADHDを併発するチック症に有効であるが、チック症全般についての効果は疑問との指摘がある。トゥレットに関する薬物療法は専門医との併診
が望ましい。漢方薬に関しては、我が国では抑肝散、抑肝散陳皮半夏、甘麦大棗湯、柴胡桂枝湯が使用され、治療効果が認められたという報告がある。
【CQ6】小児チック症の治療に対する心理療法は推奨するか?
推奨: 心理教育、支持的心理療法は弱く推奨する。リラクセーショントレーニング、アンガーコントロールトレーニング、ペアレントトレーニングは推奨されない。
解説: 心理教育とは、疾患の症状や原因、治療などの知識を提供することで、病気に対する正しい理解を深め、治療に前向きに取り組んでいくための教育的支援であり、小児の場合、適切な対応や望ましい接しかたを身につけるために養育者の心理教育も重要となる。支持的心理療法とは、傾聴、受容、共感やそのうえで行われる説明、保証、助言、環境調整などによって、患者を心理的に支持し、症状、苦痛または障害の程度を軽減するために行われる。
【CQ7】小児チック症に併存するADHDの薬物治療に何が推奨されるか?
推奨: グアンファシン(インチュニブ)またはアトモキセチン(ストラテラ)を推奨する。
解説: チック症患児の約半数にADHDが併存するとされており、ADHDの重症度はチック症状より患児の心理的社会的QOLに大きく影響することが多いため、ADHD治療薬投与が優先されやすい。我が国では、ADHDの治療薬として非中枢神経刺激薬で選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬のグアンファシンと選択的法アドレナリン再吸収阻害薬のアトモキセチン、中枢神経刺激薬のメチルフェニデート徐放薬とリスデキサンフェタミンが保険適応を得ている。メチルフェニデート(コンサータ)は我が国、アメリカでは禁忌となっているが、海外では必ずしも禁忌としない報告もある。
【CQ8】専門医につなぐことが推奨される時期はいつか?
推奨: ADHD、OCD、うつ症状、自傷行為の併存症を伴う場合やQOLの低下を認める時は、小児神経医や児童精神科医への早期の紹介を推奨する。明確な身体症状がない長引く咳は、アレルギー関連の咳や心因性の咳以外に音声チックとの鑑別が必要となるため小児神経科医に紹介することを提案する。
解説: 専門医に早期につなぐことが推奨される時期で重要な点は、チック症の併存症を患児が伴っているか否かである。