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診療案内 小児気管支喘息診療・管理ガイドライン2023のCQ.

【はじめに】

  ガイドラインは公益財団法人日本医療機能評価機構が作成した「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じてエビデンス総体と推奨グレードを設定しています。ちなみにMindsとはmedical information network distribution serviceの略です。

 それによるとガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスの SR(Systematic Review)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。

 下記のCQとはClinical questionのことです。

 ガイドラインのCQの外来診療に役立つ部分をまとめました。

【CQ1】小児喘息患者の長期管理において、吸入ステロイド薬(ICS)の長期使用と成長抑制との関連はあるか?

推奨: ICSの長期使用は成長抑制と関連する可能性があるため、適切な投与を心がけることが推奨される。

解説: 治療期間が1年の場合ICSはプラセボと比較して0.48cm/年の成長抑制が認められた。2年目以降の成長抑制は両群間で有意差がないか、あってもその差は小さかった。また、成人期までフォローした1試験ではICS使用群で、男は0.8cmの成長抑制で有意差はなく、女は1.8cmの成長抑制で有意差あり、男女平均では1.2cmの有意な成長抑制が認められた。現時点では、ICSは長期使用によって成長抑制を来す可能性があるが、小児喘息治療において最も有用な薬剤である。適切な診断と評価を行い、リスクとベネフィットを十分に考慮して、適切なICS投与を心がけることが推奨される。

【CQ2】小児喘息患者の長期管理において、ダニアレルゲン特異的免疫療法は有用か?

推奨: ダニに感作された小児喘息患者に、ダニアレルゲン特異的免疫療法を標準治療とすることが提案される。ただし、現時点では舌下免疫療法は喘息への保険適応がない。

解説: 舌下免疫療法(SLIT)では、喘息症状や呼吸機能に対する改善効果が認められたが、頓用薬の使用、全身ステロイド薬の使用、長期管理薬の使用量には有意差は認められなかった。現時点では我が国では5歳以上の種に喘息に対して皮下免疫療法(SCIT)の保険適応はあるが、SLITは小児喘息に保険適応がない。

【CQ3】小児喘息患者の長期管理において、呼気中の一酸化窒素(NO)濃度(Fractional exhaled nitric oxide; FeNO)値に基づく管理は有用か?

推奨: 臨床症状とFeNO値を合わせてコントロール状態を評価して長期管理することが提案される。

解説: FeNO値による評価を追加することで、急性増悪(発作)を起こした人数ならびに全身性ステロイド薬を要する急性増悪(発作)を起こした人数は有意に減少した。一方で、急性増悪(発作)の頻度、呼吸機能、症状スコア、QOL、ICS減量に関しては有意な改善は認められなかった。FeNO値はさまざまな状況に影響を受けるため、その判断には十分な注意が必要である。

【CQ4】小児喘息患者の長期管理において、有症状時のみに吸入ステロイド薬(ICS)を吸入(間欠吸入)することは有用か?

推奨: 現時点ではICSの間欠吸入を標準治療としないことが提案される。

解説: 有症状時のみのICS間欠吸入は、プラセボと比較して全身性ステロイド薬を必要とするような急性増悪(発作)を抑制したが、入院率は有意差がなかった。喘息スコアについては、未就学児(1歳以上6歳未満)ではICS間欠吸入により改善がみとめられたが、5歳以上の児では有意差を認めなかった。今後の検討が必要である。

【CQ5】小児喘息患者の長期管理において、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)と吸入ステロイド(ICS)のどちらが有用か?

推奨: 中等症持続型以上の基本治療ではICSを用いることが提案される。

解説: LTRAとICSを比較した試験では、全身性ステロイド役を必要とする急性増悪(発作)が起きた人数はICS群がLTRA群と比較して有意に少なかった。一方、経過中に急性増悪(発作)により入院治療を要した人数、発作治療薬を使用しない日数(rescue-free days)、炎症マーカー(末梢血好酸球数、喀痰中好酸球数)、FEV1の改善量では両群間に有意差は認めなかった。間欠型・軽症持続型や乳児のみを対象とした試験は存在せず、軽症例や低年齢に関しては今後の検討課題である。

【CQ6】小児喘息患者において、吸入ステロイド(ICS)で長期管理中の追加治療としてロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は有用か?

推奨: ICSで長期管理中の小児喘息患者においてLTRAの追加治療が提案される。

解説: LTRAの追加は全身性ステロイド薬や入院を要する急性増悪(発作)の回数を減少させず、呼吸機能検査でも%FEV1を改善させなかった。我が国では、特に低年齢児あるいは低用量ICS投与例に対してLTRAは広く一般臨床で用いられ、その有用性を経験している。また、LABAへの反応性が低い遺伝子タイプを有する症例では、ICSの追加治療としてのLTRA使用がQOLを改善させたと報告されている。

【CQ7】小児喘息患者において、吸入ステロイド薬(IC)で長期管理中にステップアップする際はICSの増量とICSに長期作用性吸入β2刺激薬(LABA)を追加する方法(ICS/LABA)のどちらが有用か?

推奨: ICSで長期管理中の小児喘息患者のステップアップとして、ICS増量とICSへのLAB追加(ICS/LABA)の有用性に明らかな差はなく、いずれも提案される。

解説: FEF値の改善と成長抑制への影響の少なさでLABA追加が優れているが、気道炎症を含めた病態あるいは予後に関しての影響は検討されておらず、ICS増量とLABA追加との優劣は、現時点では明らかではなく、いずれも提案される。

【CQ8】小児喘息患者の長期管理において、自宅のダニアレルゲン対策は有用か?

推奨: 自宅のダニアレルゲン対策を行うことが提案される。

解説: 介入によって、吸入ステロイド薬の使用減少、ピークフローの改善に有意な効果が見られた。一方で、主観的な症状、喘息症状スコア、1秒率、気道過敏性、呼気中一酸化質素濃度(FeNO)では有意な差は見られなかった。我が国では欧米と比較して室内ダニ抗原量が多いと報告されており、欧米の試験とは異なる結果をもたらす可能性がある。我が国の試験では、物理的介入によって抗原量減少と喘息症状スコアの改善がもたらされている。

【CQ9】小児喘息患者において、急性増悪(発作)時に短期間作用性吸入β2刺激薬(SABA)を反復吸入する場合は、スペーサーを用いた加圧噴霧式定量吸入器(pressurizes metered-dose inhaler; pMDI)による吸入と吸入液の電動ネブライザーによる吸入とどちらが有用か?

推奨: SABの吸入方法として、スペーサーを用いたpMDIによる吸入と吸入液の電動ネブライザーによる吸入のいずれも提案される。

解説: 欧米の報告ではスペーサーを用いたほうが入院リスクを低下させ、救急外来での滞在時間も有意に短く、有害事象として脈拍数の増加率や振戦の頻度も有意に低い結果となった。しかし、日本で使用されているプロカテロール(メプチン)による報告はなく、SABAの用量が日本の小児常用量を超えている、スペーサーの強要による感染リスクが評価されていないなどの点に留意する必要がある。したがって、現時点では優劣をつけがたく、いずれの吸入方法も提案される。

【CQ10】小児喘息患者の急性増悪(発作)時の入院治療に全身性ステロイド薬は有用か?

推奨: 入院治療に全身性ステロイド薬を投与することが提案される。

解説: 現時点では、入院患者全霊にたいして全身性ステロイド薬投与を推奨する強い根拠は存在していない。しかし、急性増悪(発作)の際の症状改善に効果が認められており、発作強度や症状改善の程度を評価し、漫然と投与することなく必要十分な期間において全身性ステロイドを使用することが提案される。

【CQ11】小児喘息患者の急性増悪(発作)の時に、特定の経口ステロイドの使用法(種類、用量、期間など)が推奨されるか?

推奨: 急性増悪(発作)時に特定の経口ステロイド薬の使用方法は提案されない。

解説: プレドニゾロンとデキサメタゾンなどに対しての検討があるが、急性増悪(発作)による入院、追跡期間中の再入院、追跡期間中の医療機関への受診を必要とする再燃、呼吸機能に関して、いずれの試験においても使用法の違いによる差は認められなかった。

                        全身性ステロイド薬の使用方法
静脈内

初回投与量 定期使用量
ヒドロコルチゾン

5mg/kg 5mg/kg
6〜8時間ごと
プレドニゾロンもしくは
メチルプレドニゾロン
0.5〜1mg/kg 0.5〜1mg/kg
6〜12時間ごと

経口

初回投与量 定期使用量
プレドニゾロン 1〜2mg/kg/日
(分1〜3)
デキサメタゾン
ベタメタゾン
0.05〜0.1mg/kg/日
(分1〜2)

状態によっては増量も考慮する。通常は3〜5日間までの使用で十分な効果が期待できる。この場合、十分な効果とは、聴診上で副雑音の完全な消失を意味するものでなく、SpO2の改善や努力呼吸の消失などの明らかな臨床的改善を意味している。

【CQ12】小児喘息患者の急性増悪(発作)時に吸入ステロイド薬(ICS)の増量は有用か?

推奨: 急性増悪(発作)時にICSを増量しないことが提案される。

解説: 急性増悪時(発作)時にICSを増量しても、全身性ステロイド薬投与の回避、予定外受診の回避、緊急入院の回避など、いずれもICS増量による有効性は示されなかった。また、身長増加率の低下の報告もあり、急性増悪(発作)時にICSの増量しないことが提案される。

【CQ13】小児のウイルス感染による喘鳴の治療にロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は有用か?

推奨: 小児のウイルス感染による喘鳴の治療としてLTRAを投与しないことが提案される。

解説: 小児のウイルス感染による喘鳴にLTRAを使用することで、経口ステロイド薬の使用、救急外来や入院回数などを減らす効果は認められなかった。一部の項目(症状スコア、医療機関への予定外受診、1日あたりの気管支拡張薬の使用頻度)において統計学的に有意差のある有効性が認められたが、臨床的な有用性を示すほどの差ではなかった。

【CQ14】乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬は有用か?

推奨: 乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬を投与しないことを推奨する。

解説: ステロイド薬の投与による入院回避や入院期間減少の効果は認められなかった。一方でステロイド薬投与によってみられた酸素飽和濃度や重症度スコアの改善は一時的だった。その他、呼吸数、心拍数、QOL有害事象についてはプラセボ群と比較して有意な差はなかった。ウイルス感染によって乳幼児に初回喘鳴を認めた場合に、治療薬としてステロイド薬を投与しないことを提案する、しかし、喘鳴を繰り返し、その喘鳴がβ2刺激薬で改善する場合には、診断的治療として吸入ステロイド薬を含めた長期管理薬を使用して乳幼児喘息を鑑別する。

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