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診療案内 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022のCQ.

【はじめに】

  ガイドラインは公益財団法人日本医療機能評価機構が作成した「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準じてエビデンス総体と推奨グレードを設定しています。ちなみにMindsとはmedical information network distribution serviceの略です。

 それによるとガイドラインとは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスの SR(Systematic Review)とその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。

 下記のCQとはClinical questionのことです。

 ガイドラインのCQの外来診療に役立つ部分をまとめました。

【CQ1】小児の咽頭炎・扁桃炎治療に対して、ペニシリン投与は推奨されるか?

 推奨: A群連鎖球菌が検出された咽頭炎・扁桃炎の3歳以上の小児に対して、臨床症状の改善、リュウマチ熱等の合併症予防や周囲への伝播防止を考慮した場合、ペニシリンを投与することを推奨する。

 解説: 小児の咽頭炎・扁桃炎の多くはウイルス性で、アデノウイルス、エンテロウイルス、単純ヘルペス、EBウイルスなどが原因となる。細菌ではA群連鎖球菌によるものが圧倒的に多い。抗菌剤の投与効果が証明されているのはA群溶連菌による咽頭炎・扁桃炎だけである。また、3歳未満ではA群連鎖球菌によって典型的な咽頭炎・扁桃炎をきたすことはなく、続発症としてのリュウマチ熱も見られないため、原則として抗菌薬治療の対象とはならない。

A群連鎖球菌による咽頭炎・扁桃炎の内服治療

薬剤名 小児投与量 最大量 投与期間
第一選択
アモキシシリン*1
(ワイドシリン、サワシリン、パセトシンなど)
30〜50mg/kg/日・分2〜3 1000mg/日 10日間
ベンジルペニシリンベンザチン
(バイシリンG)
5万単位/kg/日・分3〜4 160万単位 10日間
第二選択
セファレキシン
(ケフレックス、ラリキシン)
25〜50mg/日・分2〜4 1000mg/日 10日間
ペニシリンアレルギーがある場合
上記のセファロスポリン系薬
クラリスロマイシン*2
(クラリス・クラリシット)
15mg/kg/日・分2 400mg/日 10日間
クリンダマイシン*3
(ダラシン)
10mg/kg/日・分1 500mg/日 3日間
アジスロマイシン*2
(ジスロマック)
20mg/kg/日・分3 900mg/日 3日間

*1 アメリカでは50mg/kg(最大1g)の1日1 回投与・10日間も推奨されている。
*2 我が国ではマクロライド耐性菌が多いため注意する。
*3 我が国ではカプセル製剤のみである(75mgまたは150mg)。クリンダマイシン耐性菌に注意する。

経口第三世代セファロスポリン系の5日間短期療法の効果を示す報告もあるが、ピボキシル基を有するため重篤な低カルニチン血症と低血糖を起こす副作用が知られている。また、抗菌スペクトルが広いこと、リュウマチ熱予防のエビデンスがないことを考慮する必要がある。

【CQ2】小児の喉頭気管支炎(仮性クループ)に対して、アドレナリン吸入投与は推奨されるか?

推奨: 小児(生後6ヶ月から5歳)の中等症・重症の喉頭気管支炎(仮性クループ)に対して、臨床症状の改善を考慮した場合、アドレナリン吸入を行うことを推奨する。

解説: アドレナリンにはL型およびD型異性体、その両方を有するラセミ体がある。L型アドレナリン含有量を元に換算すると、0.5mlの2.25%ラセミ体アドレナリンは約5mlのL型アドレナリンと同量となる。

 我が国での使用量は0.1%L型アドレナリン0.1〜0.3ml/kgを生理的食塩水2mlに混じてネブライザー投与を行うのが一般的であり、体重別では0.01ml/kgを基準にしているところが多い。最大1.0ml/kgまで使用可能とする報告もあるが、添付文書では1回投与量は0.3ml/kg以内と記載されており、今後の検討が必要である。

【CQ3】小児の喉頭気管支炎(仮性クループ)に対して、ステロイド投与は推奨されるか?

推奨: 小児(生後6ヶ月から5歳)の中等症・重症の喉頭気管支炎(仮性クループ)に対して、臨床症状の改善、入院率の低下を考慮した場合、デキサメタゾン(0.15mg/kg)を経口で単回投与することを推奨する。

解説: デキサメタゾンは投与してから30分から2時間で効果を発揮し、その効果は24から48時間持続する。軽症のクループではデキサメタゾン0.15mg/kgと0.6mg/kgでは効果の差を認めないが、中等症以上では効果に差があるとの報告がある。
 我が国ではデキサメタゾンエリキシル(0.1mg/ml)が使用されることが多いが、10kgの小児では1回15mlとなり、製剤中には5%のエタノールが含まれているので15mlのビールを飲ませるのと同等のアルコール量になるので注意が必要である。

【CQ4】小児の急性細気管支炎に対して抗菌薬投与は推奨されるか?

推奨: 小児の急性細気管支炎に対して、ウイルス感染が主体であることから、抗菌薬を投与しないことを推奨する。

解説: 小児の急性細気管支炎の二次感染や重症化、急性期を過ぎた後の咳嗽や喘鳴を予防するために、抗菌薬、特にマクロライド系薬が投与されることがある。マクロライド系薬の効果は、ウイルスに対する直接的な効果ではなく、気道細菌叢に対する影響や鼻汁中のinterleukin-8(IL-8)減少効果等が関与しているとされるが、いずれの目的に対しても効果があるという証拠はない。

【CQ5】小児の肺炎に対して、重症度評価は推奨されるか?

推奨: 小児の肺炎に対して、全身状態、経口摂取、呼吸・循環・意識の状態をもとに、重症度評価を行うことを提案する。

解説:

小児市中肺炎重症度分類

軽症 中等症 重症
全身状態
General appearance
良好 不良 不良
経口摂取不良・脱水
Intake
なし あり あり
Respiration SpO2 ≧93% <93% 酸素投与下でも<93%
呼吸数 正常 異常 異常
努力呼吸
(陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸)
なし あり あり
無呼吸 なし なし あり
循環不全
Circulation
なし なし あり
意識障害
Orientation
なし なし あり

年齢別呼吸回数(回/分)新生児<60、乳児<50、幼児<40、学童<20
中等症、重症においては1項目でも該当すれば、中等症、重症と判断する。

小児市中肺炎の入院の目安

【CQ6】小児の市中肺炎(マイコプラズマ感染症を除く)に対して、抗菌薬投与は推奨されるか?

推奨: 小児の市中肺炎に対して、細菌性肺炎が疑われる場合、臨床症状の改善、副作用の軽減、費用対効果を考慮し、アモキシシリン/アンピシリンを5日間投与することを推奨する。

解説:
細菌性肺炎が疑われる場合の小児市中肺炎に対する初期治療抗菌薬
 

外来症例 入院症例
第一選択薬 アモキシシリン(AMPC)経口
30〜40mg/kg/日・分3〜4
アンピシリン(ABPC)静注
30〜40mg/kg/回1日3回
第二選択薬 クラブラン酸/アモキシシリン
(CVA/AMPC) 96.4mg/kg/日・分2
(クラバモックス)
スルバクタム/アンピシリン
(SBT・ABPC)
30〜50mg/kg/日 1日3回静注

セフォタキシム(CTX)
30〜40mg/kg/日 1日3回静注

セファトリアキソン(CTRX)
25〜30mg/kg/日 1日2回静注
あるいは
50〜60mg/kg/日 1日1回静注

ペニシリンアレルギー等、ペニシリンの使用が望ましくない場合 セフジトレンピボキシル
(CDTR-PI)(メイアクト)
9〜18mg/kg/日・分3
セフテラムピボキシル
(CFTM-PI)(トミロン)
9〜18mg/kg/日・分3
セフカペンピボキシル
(CDTR-PI)(フロモックス)
9〜18mg/kg/日・分3
   

 
ガイドラインでは外来での治療期間は5日間投与を標準投与期間としている。

【CQ7】小児のマイコプラズマ感染症に対して抗菌薬は推奨されるか?

推奨: 小児のマイコプラズマ感染症に対して、臨床症状の改善を考慮した場合、病原診断を行った上で、マクロライド系薬を投与することを推奨する。

解説: 近年マクロライド耐性マイコプラズマ(Macrolide-resistant M.pneumonias. MRMP)が問題となっている。トスフロキサシン(オゼックス)は高い除菌効果があるが、あくまでも第一選択薬はマクロライド系で治療し、48時間以上臨床的改善が見られない場合にトスフロキサシンやテトラサイクリン系(ミノマイシン)への変更を考慮するべきである。PCRなどにて耐性菌であることが確認できた場合にはこれらの薬剤の選択を考慮すべきである。

【CQ8】小児の百日咳に対して、抗菌薬投与は推奨されるか?

推奨: 小児の百日咳患者に対して、症状の期間短縮と周囲の伝播防止を考慮した場合、発症1〜2週間以内のカタル期にマクロライド系薬を投与することを推奨する。

解説:
小児百日咳治療に使用する抗菌薬一覧

抗菌薬 年齢 用量
(mg/kg/日)
回数
(回/日)
投与期間
(日)
アジスロマイシン
(保険適応外)
生後6ヶ月未満 10 1 5
生後6ヶ月以上 10
5
1
1
1(1日目)
4(2〜5日目)
クラリスロマイシン    15 2 7
エリスロマイシン    40 4 14
ST合剤
(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)
(保険適応外)
   8
(トリメトプリムの量として)
2 14

ST合剤は2ヶ月未満には使用しない。マクロライドにアレルギーがある児、マクロライド耐性百日咳患者に使用する。

新生児、乳児にけるマクロライド系薬の投与で問題となるのが、乳児肥厚性幽門狭窄のリスクが上がることであるが、生後1ヶ月未満の児には、アジスロマイシンの使用を推奨している。

【CQ9】小児の百日咳の二次発症の予防に、抗菌薬投与は推奨されるか?

推奨: 小児が百日咳患者に家族内で暴露した場合、二次予防のため、暴露後早期にマクロライド系役を投与することを推奨する。

解説: 百日咳の潜伏期間は7〜10日であり、この期間に抗菌薬の予防投与を行い、百日咳菌を除菌し、発症の予防を行うことがある。

小児の百日咳暴露後に使用する抗菌薬一覧(すべて保険適応外)

抗菌薬 用量
(mg/kg/日)
回数
(回/日)
投与期間
(日)
注意事項
アジスロマイシン 10 1 5 相互作用に注意
クラリスロマイシン 15 2 7 相互作用に注意
エリスロマイシン 40 4 14 消化器症状に注意
ST-合剤 8
(トリメトプリムの量として)
2 14 生後2ヶ月未満には使用しない。マクロライドにアレルギーがある児、マクロライド耐性百日咳患者に用いる

【CQ10】小児のインフルエンザ治療に抗インフルエンザ薬は推奨されるか?

推奨: 小児のインフルエンザ患者に対して、発熱や気道症状などの早期回復と合併症予防を考慮した場合、発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬を投与することを推奨する。

解説: コクランレビューではオセルタミビルは罹患期間の中央値を36時間短縮し、1〜5歳の中耳炎の合併率を減少させることが報告されている。また基礎疾患のない小児の有熱期間は平均で29時間短縮することが報告されている。一方、嘔吐の頻度が有意差を持って高くなる。
 また、通常生活に戻るまでの期間も30時間短縮した。入院率も有意に低下した。

【CQ11】小児のインフルエンザの二次発症の予防に、抗インフルエンザ薬投与は推奨されるのか?

推奨: 基礎疾患等によるハイリスク児がインフルエンザ患者に家庭内で暴露した場合、二次発症予防のため、暴露後早期に抗インフルエンザ薬を投与することを推奨する。

解説: 予防投与として認可されている抗インフルエンザ薬はノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)であるオセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ラニラミビル(イナビル)とキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるバロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)である。全て保険適応外である。オセルタミビル、ザナミビルの一日あたりの予防投与量は治療量の半量で期間は治療量の倍である。ラニラビルは単回投与であり、投与量は10歳未満および10歳以上で治療量と同量であるが、10歳以上であれば2日間に分けることも可能である。バロキサビルは、10mg錠が予防内服投与適応外である。

CQ12〜15は特別な疾患に対してのものであるため、解説は省略します。

【CQ12】基礎疾患(免疫不全)のある小児の肺炎に対して、特別な治療が推奨されるか?

推奨:免疫不全がある小児の肺炎に対して、臨床症状の改善、致命率低下を考慮した場合、日和見病原体に対する治療を開始することを推奨する。

【CQ12-1】原発性免疫不全症の小児の肺炎に対して、特別な治療が推奨されるか?

推奨:原発性免疫不全症の小児の肺炎に対して、疾患ごとに注意すべき病原体に対する治療を開始することを推奨する。

【CQ12-2】固形臓器移植後の小児の肺炎に対して、特別な治療が推奨されるか?

推奨:固形臓器移植後の小児の肺炎に対して、移植臓器や移植後の時期により、細胞性免疫不全における日和見病原体を考慮した治療を開始することを推奨する。

【CQ12-3】造血細胞移植後の小児の肺炎に対して、特別な治療が推奨されるか?

推奨:造血細胞移植後の小児の肺炎に対して、移植後の時期により、日和見病原体を考慮した治療を開始することを推奨する。

【CQ13A】基礎疾患(神経筋疾患)のある小児の肺炎に対して、呼吸理学療法が推奨されるか?

推奨:基礎疾患(神経筋疾患)のある小児の肺炎に対して、喀痰排出に有効な咳嗽反射が得られない場合、無気肺の予防と気道感染の防止を考慮し、機械的咳介助を実施することを推奨する。

【CQ13B】基礎疾患(神経筋疾患)のある小児の肺炎に対して、抗菌薬治療が推奨されるのか?

推奨:

  1. 神経筋疾患を有する小児の肺炎の初期治療では、抗緑膿菌作用のある抗菌薬を一律に使用しないことを提案する。
  2.  

  3. 神経筋疾患を有する小児の重症肺炎に対して、臨床症状の改善を考慮した場合、緑膿菌や薬剤耐性菌に対する治療を行うことを提案する。
  4.  

【CQ14】小児の院内肺炎に対して、抗菌薬投与は推奨されるか?

推奨:

  1. 小児の院内肺炎に対する抗菌薬投与の必要性については、症例ごとに決定すべきである。
  2.  

  3. 小児の人工呼吸器関連肺炎に対して、頻度の高い細菌と施設ごとの感受性、患者の重症度や背景から、投与する抗菌薬の種類を決定することを提案する
  4.  

【CQ15】小児の膿胸に対して、推奨される抗菌薬投与期間はどれくらいか?

推奨:小児の膿胸に対して、7日以上の抗菌薬投与を行うことを提案する。

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