WHOインフルエンザ治療ガイドラインと米国CDCの抗インフルエンザ薬選択基準
2022年3月にWHO(世界保健機構)から、新たなインフルエンザ治療ガイドラインが発表されています。また、2022年末に米国にて新たな抗インフルエンザ薬選択基準が発表されています。WHOや米国の考えが正しいとは限りませんが参考になると思います。菅谷先生の文献を参考にしています。
- WHOインフルエンザガイドライン
- 健康人のインフルエンザは治療しない
リスクのない健康な成人、小児の軽症インフルエンザには抗インフルエンザ薬の対象としていません。欧米ではインフルエンザ治療は重症化と死亡の防止を目的とし、健康な人はアセトアミノフェンの投与以外は実施しないのが原則になります。
- ハイリスク患者のタミフル(オセルタミビル)治療
WHOガイドラインではインフルエンザ患者をリスクを有する群とリスクのない群に分けており、リスク群全例にタミフル投与を推奨しています。具体的には重症患者(入院患者と同意)と、慢性の肺疾患、心疾患などの基礎疾患を持つハイリスク患者、65歳以上の高齢者、6歳未満の低年齢小児、妊婦と分娩後2週間以内の褥婦、高度肥満などを治療対象者としています。たとえば、喘息患者、低年齢の乳幼児は軽症のインフルエンザであっても治療対象となります。
- タミフルの死亡防止効果の確認
タミフル使用患者ではインフルエンザによる死亡を62%減少させたことが判明しています。また、入院も35%減少させたことがわかっています。
- タミフル以外は使用しない!
タミフル以外のノイラミニダーゼ阻害剤(リレンザ、イナビル、ラピアクタ)を推奨しないのはデータがないからです。タミフル耐性株が出現した時にはこの推奨は適応されません。ただし、ラピアクタは点滴になるので経口摂取ができない時のみ使用するのが良いでしょう。
- 我が国のインフルエンザ診療との比較
日本では健康成人・小児を中心として、すべてのインフルエンザ患者を抗インフルエンザ薬で早期に軽症の段階で治療することが多いです。2009年の新型インフルエンザのパンデミックの際には、日本において世界で最も少ない死亡者数と妊婦の死亡ゼロを記録したことはWHOからも高く評価されています。
- 米国CDCによる抗インフルエンザ薬の選択
- 外来患者の治療
米国では肺炎、気管支炎などのインフル炎合併症のない外来患者に、3種類のノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル、リレンザ、イナビル)か、あるいはゾフルーザによる治療を勧奨しています。リスクのない外来患者には発症48時間以内であれば受信なしで抗インフルエンザ薬治療を考慮することができます。
外来患者であっても合併症のある場合とハイリスク患者で基礎疾患が認められる場合、タミフルのより治療が推奨されています。
タミフルはインフルエンザBには効果が低いことがわかっています。B型に対してはゾフルーザがタミフルに比べ症状改善効果があるというデータがありますが、勧奨はしていません。
- 入院患者(重症患者)の治療はタミフル
入院患者に対しては診断確定を待たないでタミフルを投与することが推奨されています。これにより入院期間の短縮と死亡リスクを減少させる可能性があります。ゾフルーザ、リレンザ、に関しては十分なデータがないため勧奨されていません。
- 免疫不全患者の治療はタミフル
免疫抑制状態ではインフルエンザウイルスの複製が長期化かし、治療中または治療後に耐性ウイルスの出現が懸念されるため、ゾフルーザは勧奨されません。
- 妊婦の治療はタミフル
有用なデータのあるタミフルが推奨されています。
- タミフルを含むノイラミニダーゼ阻害剤とゾフルーザ(バロキサビル)併用の有用性はない
データから併用と単独で有意差が出ませんでした。
- 日本感染症学会のゾフルーザ使用の提言
ゾフルーザによる耐性変異が高率に発生することに警戒を呼びかけていますが、外来治療については、12歳以上の青年、成人についてゾフルーザとタミフルを同等の推奨度としています。12歳未満に関しては慎重な投与適応判断が必要です。